「まだ154キロ出る」26歳元広島投手、悲壮な挑戦 大谷・藤波世代の辻空が語る断固とした決意
この2カ月で体重を7kgもしぼった。無論、「正真正銘のラストイヤー」に向けて、だ。度重なるケガ、戦力外通告、2度のトライアウト失敗、そして不完全燃焼に終わった今シーズン。たった2年の間に、数え切れないほどの葛藤があった。何度も岐路に立たされた。
そのたびに、辻は「まだやれる」を選択してきた。辻にとっては悩んだ末の結論に違いないが、それは辻を応援する家族や仲間たちが、その道を選ばせてくれたのかもしれない。だた、辻は「最終的に決めるのは僕なので」と言う。
「自分の実力に自信があるから、野球を続けるということです。1軍に上がって投げてみたいというだけではなく、もちろんその先も、いつも意識しています。1軍で抑えて活躍するイメージを持ったうえで、まだできるという自分の判断なんです」
そこまで言い切れるのは、不完全燃焼に終わった今シーズンにつかみかけていたものがあるからだ。
「今までの野球人生の中で今年の投球が一番良かったし、自分の体のこともよくわかるようになった。好不調の波も少ないですし、まだまだ伸びる要素はあると思っています。来年、『欲しい』と言ってもらえるように、一生懸命やって、やり切ります」
可能性があるならあきらめずに挑戦
その一方で、「僕がNPBに復帰できる確率は、ほぼゼロに近いと思うんですけど……」と少し弱気な口調にもなる。
「でも可能性があるならあきらめずに挑戦して、自分の持っている力を出し切りたい。もしNPBに復帰できたら、誰かのために頑張る気持ちというのは、本当に強いんだな、と感じてもらえると思います」
不安を振り払うように、辻は強い口調でそう言った。
最後に、10月3日に放送された『バース・デイ』(『戦力外通告』の姉妹番組)の反響について尋ねると、辻は「応援してくれる人が増えた」と語った。「もともと応援してくれていた人たちも、もっと応援してくれるようになった」と。さらに続いた言葉が、「辻空」という人間の魅力を物語っている。
「僕の周りはいい人ばかりです」
辻の人となりに触れてあらためて思う。彼は「いい人ばかり」を引き寄せる、応援したくなる存在なのだと。
「1%でも1軍で投げられるチャンスがあるのならあきらめない」という辻の、本当ならば今年で終わったはずの夢を、あと1年見守ろうではないか。そして、もしも辻の夢がかなう瞬間を観ることができるならば、野球ドラマの奥深さ、人生の情趣を、われわれは改めて痛感するはずである。
(文中敬称略、取材・構成:藤田晴彦、中村翔)
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