「まだ154キロ出る」26歳元広島投手、悲壮な挑戦 大谷・藤波世代の辻空が語る断固とした決意
ケガでアピールの機会を失った
「同じ右投手だったので、悔しかったです……」
そう振り返るリモート画面越しの辻空の目には力があった。辻は2018年、広島東洋カープから戦力外通告を受けた。独立リーグの埼玉武蔵ヒートベアーズに所属し、NPBへの復帰、さらには現役時代に立つことがかなわなかった1軍のマウンドを目指している。
辻が目指すルートの好例を一足先に示した選手が、「同じ右投手」の歳内宏明だ。昨年、阪神タイガースを戦力外になり、独立リーグの香川オリーブガイナーズに所属。そして今年、見事な復活劇を見せつけた。今シーズン途中の9月にヤクルトスワローズと契約を結ぶと、16日に1軍のマウンドへ返り咲いた。10月1日の試合では、実に1829日ぶり、先発登板としては自身初の勝ち星を挙げたのだ。
例年、NPBの支配下選手登録の締め切りは7月末。新型コロナウイルスの影響で開幕が3カ月遅れた今シーズンは、特例により登録期間が9月末まで延長されていた。しかし、歳内のNPB復帰が報道されたとき、辻自身は今シーズン中に復帰できる可能性は限りなくゼロに等しかった。
「完全にプロからの獲得はなくなった。野球をやめよう」
それは8月8日の神奈川フューチャードリームス戦のときだった。辻は1球目を投げた瞬間、右肩に違和感を覚えた。わずか22球での降板。不運にも、それは違和感では済まなかった。診断は大円筋断裂。全治2カ月を宣告された。2カ月後には独立リーグのシーズンは終了し、前述の支配下選手登録期間も過ぎてしまう。辻は、突如としてアピールの機会を失った。