享年33歳の彼女が記す「日本一長い遺書」の重み 大量吐血の後、余命2カ月でつづった覚悟のブログ

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息子や友人たちに向ける眼差しとはまったく異なる棘のある正論。自分と比べて随分と満たされているのに、なおも不満をこぼす世間の人々を睨みつける。

けれどその一方で、自分の境遇が世間の所為ではないことを十分に承知してもいる。子は親を選べないのはわかっているし、スキルス胃がんが早期発見できなかったのも誰の所為でもない。元夫の所業も元夫以外の誰の所為でもない。わかっている。けれど憤懣やるかたない。その気持ちを吐き出さなければ正気でいらない。「なんで私が」「なんで私ばかりが」。

その叫びをなるべく大きく長く響かせるために、ブログという媒体を選んだのではないか。SNSは双方向性とリアルタイム性が強いが、ブログは自分の意図するメッセージを意図するかたちで留めておきやすい。だから、日記帳に書き殴るより、SNSで吐き出すより、ブログで叫んだのではないか。

終末期に現れる4つの苦痛を内包

近代的なホスピス(終末期ケアの仕組みや施設)の母として知られるイギリスの医師、シシリー・ソンダースは、がんなどで終末期を迎える際は4つの苦痛が現れると説いている。

病や衰弱からくる直接的な「身体的苦痛」のほか、仕事や家庭のことが思うようにできない「社会的苦痛」、不安や孤独感などが襲う「精神的苦痛」、死への恐怖や人生の後悔などを含む「スピリチュアルペイン」があるという。スピリチュアルといっても神秘主義や宗教性に基づいたものではなく、文化的な背景を問わず根源的に湧き上がる苦しみを指す。

このブログは全編を通してこれら4つの苦痛が色濃く滲んでいる。医療スタッフや周囲の患者の意に沿わない言動が見過ごせなかったり、スパム書き込みや意図をよく理解せずに諫めにくるコメントに苛立ちが隠せなかったりするのも、そうした苦痛で精神が炎症を起こしている現れにみえる。そして、その炎症はストレス源と向き合ったとき最大になる。

7月7日、どうにか短期間の外出ができるまでに回復したとき、吐血の前から進めている2回目の調停に出向いた。元夫から息子の親権を取り戻し、自分が所有している住まいから元夫を退去させ、元夫が勝手に捨てた自分の荷物を弁償してほしい。

しかし、元夫の弁護士は立ち退きに応じても親権は渡さない構えであると伝える。予想はできていた。余命が幾ばくもない自分が親権を取り戻すのは厳しく、また、自分の死後には息子への相続を通して資産が戻ってくる。それを見越しているのだろう。

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