地方創生成功の鍵は穏やかなカオスを作ること 100人の革新者を発掘したプロジェクトの要諦
齊藤:僕も全国を回っていて多くの人と出会いますが、イノベーションを起こしたい人が100人いたとすると、実際に行動する人は10人、やり抜く人は1人です。結局、やり抜いた人だけが、ここで言うイノベーターになっているんです。残りはみんな途中でやめてしまう。
イノベーターは、もちろん発想は大事ですが、それ以上に諦めずにやるとか、人から何を言われてもやり切るというところに本質があるように思います。先ほど仲山さんがおっしゃったように、きっかけはささいなことであっても、やり抜いたらそっちの事業のほうが大きくなってしまってイノベーターと呼ばれるようになったというケースはよくあります。
仲山:ええ、何かが起こるまでやめなかった人ですよね。
イノベーションを起こす「穏やかなカオス」の方程式
齊藤:今回、仲山さんが拙著の帯に書いてくださった言葉が印象的でした。「イノベーションを生むには『余白・異分子・計画的偶然』をかけ合わせて『穏やかなカオス』をつくる」ということですが、これについて詳しくお聞きしたいです。
仲山:元ネタは、オリ・ブラフマンとジューダ・ポラックの著書『ひらめきはカオスから生まれる』(日経BP社)です。ここに、「余白と異分子と計画的偶然(セレンディピティ)からひらめきが生まれる」と書いてあるんです。そこから自分なりに考えて、この3要素を掛け合わせて「穏やかなカオス」をつくるのが、創発的なイノベーションを起こりやすくするコツだなと思って、
「穏やかなカオス=余白×異分子×計画的偶然」
という表現を使っています。
よく「破壊的創造」という言葉を使う人がいますが、本当に破壊的にプロジェクトを進めようとすると、感情的にダメージが大きすぎたりしてうまくいかないんです。一方でうまくいくときは、カオスであっても対話的にすり合わせが行われる「穏やかなカオス」の中にいることが多いなと気づきました。
「余白」には、空間的余白、時間的余白、心理的余白、頭脳的余白などさまざまな種類があります。余白をつくるためには、とくに「自分の仕事をなくすために働く」という意識が大切です。逆に言えば、「いまの自分の仕事がなくなると自分の居場所がなくなってしまう」という意識を持っていると、無駄に仕事を複雑化しつつブラックボックス化しやすくなるので、カオスから遠のきます。
次に「異分子」。化学反応を起こすためには、異分子が必要です。先にも触れたような東京から地方に戻ってきた人も、地方にとっては異分子になります。
アメリカのコーネル大学経営大学院の唐川靖弘さんが、イノベーション人材として「うろうろアリ」というコンセプトを提唱しています。アリの行列を観察していると、列になってお菓子を運んでいる働きアリたちの中に、列からはみ出してうろうろしているアリが数匹いることに気づいたのだそうです。
そのうろうろアリを見ているうちに、まだ誰も発見していないお菓子を見つけた。この様子を見た唐川さんが、「イノベーション人材とはこういう存在だ!」とひらめき、うろうろアリのコンセプトが生まれたといいます。