地方創生成功の鍵は穏やかなカオスを作ること

100人の革新者を発掘したプロジェクトの要諦

齊藤:同感です。僕が所属する野村総合研究所の「2030年研究室」では、2012年に全国のさまざまな領域から100人の革新者(イノベーター)を発掘し、ネットワーク化するプロジェクトを始めました。

この後、彼らがイノベーションに用いるスキルを地方における創造的起業家育成に活用できないかと考え、2015年に地方創生のための「イノベーション・プログラム」を開発しました。全国各地に革新者を送り込み、地域に集まった起業家人材とかけ合わせることで、地域に新しい事業の種をつくり出すという取り組みです。

ここで非常に活躍している人たちこそ、まさに仲山さんがおっしゃったような人材なのです。一度外の都市に出て地方に戻ったときに、初めて相対化して自分の地域を眺め、意味づけをしていくのではないかと感じます。もう1つ、仲山さんもご指摘されていましたが、いったん都市部で切磋琢磨をしたり、理不尽な競争環境に置かれたりする中で、鍛えられる部分もあるでしょうね。

「何かが起こるまでやり抜く人」が成功する

齊藤:近年、イノベーションをどう起こすかということに注目が集まっていますが、僕はそんなに高尚なものではなく、非常に泥くさいことだと考えています。

齊藤義明(さいとう よしあき)/野村総合研究所 主席研究員 2030年研究室長。北海道大学卒業。1988年野村総合研究所入社、ワシントン支店長、コンサルティング本部戦略企画部長などを歴任、現在はイノベーション・プログラムの開発者として全国を飛び回る。100人以上の革新者(イノベーター)たちと親密なネットワークを持つ。著書に『日本の革新者たち』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『次世代経営者育成法』(日本経済新聞出版社)、『モチベーション企業の研究』(東洋経済新報社)など(写真:筆者提供)

イノベーション・プログラムを5年間進めてきた中で関わったイノベーターは、どちらかというと普通の人でした。誰の中にもイノベーターとしての欲望や人格が潜んでいます。僕の役割は、彼らの内側にいる「小人イノベーター」を引っぱり出して、事業やプロジェクトという形にする手伝いをすることでした。革新者は、必ずしも無から有を生み出すような発明家ではないのです。

今回上梓した『イノベーターはあなたの中にいる 創造的起業家に変わる体験のデザイン』(東洋経済新報社)のタイトルにもありますが、あなたの中にはすでに小人イノベーターが住んでいるという感覚なのです。ただ、地域のしがらみの中で「バカにされるからやらない」とか、「失敗したらどうしよう」「家族に負担はかけられない」とか、さまざまなリスクを考えて押し殺してしまう。

僕にとってのイノベーションとは、規模の大きさに限らず、各人が小人イノベーターを引っぱり出すことだと思います。仲山さんから見たイノベーション、イノベーターとはどのようなものでしょうか。

仲山:僕の周囲のネットショップ経営者が、ここ1〜2年、世間からイノベーターと呼ばれたり、「活躍する女性起業家」として取り上げられるようになったりしています。最近では、軽井沢のクラフトビールメーカー「ヤッホーブルーイング」が、イノベーション理論の権威である「ポーター賞」を受賞していました。でも、みんな自分がイノベーターだとか起業家だと自負している感じはあまりないんですよね。

というのも、起業を志してネットショップを始めたわけではなく、何らかの事情があってやらざるをえなかったのです。例えば、家業を継ぐために戻ってきた人がいましたが、戻ったばかりのときはまだ父親も現役で社長をやっていて、古参の幹部たちも元気に働いていますから、自分がやる仕事がなかった。

そこで「ネットショップでも始めてみよう」と立ち上げるのですが最初は全然売れなくて、社内から遊んでいるように思われながらも地道に試行錯誤を繰り返しているうちにいつの間にか大きく伸びていた。そんなケースも多いんです。だから別に自分をイノベーターだとは思っていないので、「イノベーションを起こした事例」として取材されたときに「これがイノベーションっていうことなんですか?」と言っていたりします。

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