グーグルが「感染症学者」をスカウトした理由 テック企業で医療の専門家が果たす役割とは
アメリカのIT大手グーグルには今、数百人の医師や医療関係者が働く部門がある。2019年に設立された新部門「グーグルヘルス」は、さながら医療のメガベンチャーのごとく、人工知能(AI)による疾病の画像診断から、電子カルテの開発、医療データの活用、正確な医療情報の発信まで、医療に関連するサービスを幅広く手がける。
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、グーグルは自社のサービスでコロナ対策の機能を広げている。特に注目を集めたのは、スマートフォンOS(基本ソフト)のアンドロイド向けに開発した「接触確認アプリ」のAPI(ソフトウェア同士の接続機能)だ。同じくOSを手がけるアップルとの共同プロジェクトで、日本でダウンロード数が2000万を超えたアプリ「COCOA(ココア)」にも採用されている。
直近ではワクチンの接種が始まったイギリスから、検索画面において、ユーザーの居住国で認められているワクチンのリストや、それぞれのワクチンの詳細を説明するパネルの表示を始めた。各国の当局がワクチンを承認するにしたがって、この機能の提供地域も広げる方針だ。検索などの自社サービスにおける正確な情報の取りまとめや、自ら保有する膨大なデータの外部公開など、コロナ禍でのグーグルの取り組みは幅広い。
これらの事業を指揮するのが、チーフ・ヘルス・オフィサー(CHO、最高医療健康責任者)を務めるカレン・デサルボ氏だ。感染症学者としてアメリカの大学病院からキャリアを始め、2005年のハリケーン「カトリーナ」で打撃を受けたニューオーリンズ市で公衆衛生の責任者として医療システムの立て直しに取り組んだ。その後オバマ政権では厚生次官補を務めている。
デサルボ氏がグーグルに入社したのは2019年12月。入社直後にコロナ禍となり、対応に追われる日々だという。入社の理由やコロナ対応、グーグルヘルスの戦略についてデサルボ氏が東洋経済の取材に答えた。
消費者に信頼できる情報を提供する
――医療現場や行政機関でキャリアを積んできた中、なぜいきなりグーグルへと移ったのですか。
グーグル社内には医療や公衆衛生に関する幅広い取り組みがある。自らの経験をこれらの世界で生かし、AIや機械学習、画像認識といった技術を専門家たちと一緒に臨床の現場に導入できるチャンスにとてもわくわくした。
同時に、医療や健康について調べたい消費者には正しく信頼できる情報を(グーグル検索などのサービスを通して)提供する。今や誰もが医療や健康の情報をグーグルで調べている。公衆衛生の分野ではこれまで、人々に対して「私たちのウェブサイトを見て」「信頼できる情報を収集して」と(専門家が)働きかけていた。だが今では誰もが毎日グーグルに(情報を取りに)やってくる。
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