グーグルが「感染症学者」をスカウトした理由 テック企業で医療の専門家が果たす役割とは
一人ひとりの患者に医者として向き合うこともできるが、グーグルは企業として世界中に対して大規模にできる。これは素晴らしいチャンス。だから私はグーグルを選んだ。自分のバックグラウンドやスキルが生かせる時代に、偶然にもこの場所にいることができている。
――以前から医療でのテクノロジー活用には積極的だったようですね。
そもそも医療とテクノロジーの両方にかかわるようになったのは、カトリーナの後にニューオーリンズ市の職に移ったときだ。自然災害を目の当たりにして、一人ひとり患者だけでなく、地域全体の健康改善に尽力しようと思った。そこで取り組んだのが、地域の患者が感じる肉体的、精神的、そして社会的なニーズを満たすためのヘルスケアシステムの構築だ。
テクノロジーの力を最大限生かし、診察予約や紙のカルテを電子化したり、個人だけでなく地域の健康状態を把握するためのITインフラを構築したりした。オバマ政権で働いた際には、医療、公衆衛生、テクノロジーが入り混じれば、病気の治療をするだけでなく、病気の予防もできることを感じた。
誤った情報は排除する必要がある
――CHO着任直後にコロナの感染拡大が始まりました。
コロナ禍では特に消費者向けのさまざまな取り組みが加速した。先ほど話したとおり、まずグーグル検索などで信頼できる情報の提供を始めた。これまでのキャリアにおいて痛感していたのが、パンデミックのような有事には、人々が何をすべきか、何をすべきでないかについて正しい意思決定をするために質のいい情報が必要だということだ。
誤った情報は排除しなければならない。ユーチューブで一般に広まってほしくない有害な情報はすぐに削除し、検索では正しい情報を上位に持ってくる。世界中でこれまでにないほど医療や健康の情報が検索されている中では、重要な課題だ。
――この間に特に注力してきたことは何でしょうか。
まず着手したのが、世界保健機関(WHO)や各国の保健当局などと連携し、正確なデータやコンテンツをグーグル上で届けること。コロナウイルス関連の検索をした際に、統計情報や症状の特徴、予防や治療法、最新のニュースといったカテゴリー別に、正確で信頼できる情報を表示するようにした。
公衆衛生の研究者たちからの要請で公開したのが、「コミュニティ・モビリティ・リポート」(匿名化した位置情報を基に解析した店舗や駅の混雑状況の変化に関するデータ)だ。人々が外出自粛の要請に応えているかを把握できる。グーグルマップではどの場所が混雑しているかを示し、密になりがちな場所がわかるようにしている。
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