所得格差が先進国で拡大している理由 デフレから脱却すると資産格差が所得格差を生む

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このような格差の問題を考える際には、われわれがよく使う平均値という物差しは、判断を誤らせる。米国経済は全体として見れば経済成長が続いてきたから平均値では豊かになったはずだが、OECDは米国では所得が最も少ない10%の層の人たちの収入は、2000年から2008年の間に実質で10%減少したと指摘している。

平均値よりも中央値のほうが実感に近い

日本では家計が保有している金融資産について、新聞やテレビでは、「2013年の平均貯蓄残高は1739万円で、前年に比べ81万円4.9%の増加となった」と報じている。自分は平均的なサラリーマンだと思っていたのに、これほどの貯蓄はないと驚いた人が多いのではないか。実は貯蓄残高が1739万円に達しない世帯が圧倒的多数で、平均貯蓄残高以上を保有している世帯は3割程度だ。

当然のことながら「実感と合わない」という批判の声が出てくるが、統計がおかしいわけでも、間違っているわけでもなく、使い方が間違っているだけだ。平均という言葉は、平均的なサラリーマンというように、一般的なという意味で使われることが多い。しかし、統計で使われる平均は、必ずしもそうではない。総務省の報告書は「貯蓄保有世帯全体を二分する中央値は1023万円となった」とも書いている。平均的サラリーマンの保有している貯蓄としては中央値のほうが適切で、平均値の3分の2程度だ。(図3)

米国にも同じような統計があるが、商務省センサス局が発表している資料には平均値と中央値の両方が掲載されていることが多い。米国のマスコミは、どちらかと言えば中央値のほうがよく引用される傾向にあるという印象を受ける。日本で利用者やマスコミ側の問題というよりは、発表されている資料自体が中央値はあまり扱われておらず、平均値が中心となって作られていることにも原因があるだろう。

日本では、長年、デフレに悩まされていたため株価が低迷し金利も低水準を続け、財産所得は低迷した。しかしデフレ脱却が実現すると、欧州のように資産格差と所得格差のスパイラル的な拡大というメカニズムが働くようになる可能性がある。アベノミクスの恩恵が広く国民に行き渡るようにという視点から、これから格差の問題が一層注目されるようになるだろう。

<参考文献>
OECD (2014), “Tackling high inequalities creating opportunities for all”
OECD (2014), “Focus on Top Incomes and Taxation in OECD Countries: Was the crisis a game changer?”
Piketty, Thomas, (2014), “Capital in the Twenty-First Century”, The Belknap Press of Harvard University Press
Jon Bakija, J. et al, (2012), “Jobs and Income Growth for Top Earners and the Causes of Changing Income Inequality: Evidence from U.S. Tax Return Data”, Williams College

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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