「水素」「EV」で急速に国策が動き出したワケ 橘川教授が語る「日本版脱炭素化の見取り図」

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――なるほど。発電はアンモニア、自動車など輸送機器は水素というすみ分けですね。しかし、発電所自体がアンモニア活用でCO2フリーになるなら、自動車業界が長年力説してきた「Well to Wheel」(油井から車輪まで)で見ても、全部EVでいいということになりますね。

自家用車はEV、大型など商用車はFCV

EVは電池容量の関係で航続距離が短いこと、充電に30分以上かかることがネックとしてあるが、一般的な自家用車の利用としては問題ない。一方、トラックやバスなど大型車やフォークリフトといった商用分野では、航続距離や充時間(水素なら約3分)という要素が重要であり、水素が活用されるだろう。つまり、自家用車はEV、商用車はFCVというすみ分けだ。

インテグラル(すり合わせ)型に強い日本車メーカーは、モジュラー型(組み合わせ型)のEVに消極的だといわれてきた。しかし、実際にはトヨタなどは火力発電のCO2フリーというゲームチェンジャー登場を受けて、EVとFCVにがぜん力を入れ始めていると思う。

――歴史を見るまでもなく、エネルギー政策は、安全保障と不可分一体です。日本が水素社会の方向へ舵を切るとすれば、外交にも影響は及びそうですね。

日本の外交戦略である「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)は、日米とインド、オーストラリアがカギを握るといわれている。こうした中で、水素戦略によって日本で大幅な需要拡大が予想される水素・アンモニアの調達先としては、オーストラリアが注目されている。米中対立の余波を受けて、中国がオーストラリアからの輸入を減らす方向だが、代わりに日本がオーストラリアからの天然ガスないし水素・アンモニアの輸入を増やすことはFOIPにとってもプラスという考え方だ。

日本はLNG(液化天然ガス)などの貿易や物流のノウハウで強みを持っている。その強みを発揮して、アジア地域での水素社会化やエネルギー輸送などで主導権を発揮することが期待される。また、CO2フリーの火力発電建設の輸出も期待できる。一方、中国も水素関連技術に強い関心を持っており、対中政策でも交渉カードの1つになるかもしれない。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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