「水素」「EV」で急速に国策が動き出したワケ 橘川教授が語る「日本版脱炭素化の見取り図」

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――火力発電がCO2フリー化すると、電力全体の構造はどう変わりますか。

橘川武郎(きっかわ・たけお)/1951年生まれ。東京大学教授、一橋大学教授、東京理科大学教授を経て2020年4月から現職。経済産業省・総合資源エネルギー調査会委員。(撮影:尾形文繁)

電力の脱炭素化の基盤となるのは、もちろん再生可能エネルギーで、こちらも今後間違いなく拡大する。ただ、再エネの発電は天候や時間帯に左右される。それをバックアップし、安定した電力を供給する調整用電源が必要になる。蓄電池はその候補だが、容量拡大やコストなど技術的課題を突破できる時期は見通せない。火力発電はこれまでも調整用電源を担っていたが、CO2を排出するため、バツが付いていた。しかし、アンモニアの活用により、火力発電はCO2フリーの調整用電源としての裏付けができた。

一部には、菅政権のカーボンニュートラル宣言は原子力発電の復活を狙っているとの声があるが、それは違う。菅政権は依然としてリプレース(建て替え)は行わないなど原発に対しては踏み込んでおらず、逆に火力発電の脱炭素化が実現するなら、CO2を出さない電源としての原発の必要性は薄れる。菅政権は安倍晋三政権時代と同様に原発をそっとしておくつもりだと思う。

CO2の回収・貯留が最大の課題

――ただ、脱炭素化で先頭を走る欧州は、再生可能エネルギーで水を電気分解した水素・アンモニアを「グリーン」、天然ガスなど化石燃料から取り出した水素・アンモニアを「ブルー」と呼んで、後者の脱炭素化への効果に懐疑的な声を上げています。天然ガスから水素・アンモニアを作る過程で生じるCO2はどうするのでしょうか。

最終的な方向としてはもちろん、日本も再エネ由来の水素・アンモニアになるのだろう。しかし、再エネ価格が大幅に低下し、コストメリットで再エネ導入が進む欧州と、まだまだ再エネのコストメリットが見いだしにくい日本では事情が違う。現在の政府や民間のロードマップを見ても、日本はまず移行期として天然ガス由来の水素・アンモニアを想定している。

この部分は、非常に大きな課題だ。というのも、天然ガスから水素・アンモニアを作るときに発生するCO2を分離回収・貯留するCCS(二酸化炭素回収・貯留)の技術や装置で日本のメーカーは競争力を持つものの、CO2の貯留場所をいかに確保していくかについてはいまだ不確実なところがあるからだ。

天然ガス由来の水素やアンモニアを日本にどう持ちこむかについては、①資源国の設備において天然ガスから水素・アンモニアを作って、それを日本へ輸入するやり方と、②資源国からLNG(液化天然ガス)の形で輸入して、日本国内で水素・アンモニアを取り出すやり方の2つが想定されている。その際、資源国や日本国内でCO2を安全に貯留できる場所を確保する必要がある。

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