アップル「初ヘッドホン発売」が意味する戦略 iPhoneのカメラに続き「演算能力」で問題解決
このコンセプトはアップルだけのものではなく、「コンピュテーショナルフォトグラフィー」というジャンルとしてさまざまな企業が取り組んでいる。
同様に演算能力でオーディオの質や機能を改善しようという動きもある。アップルは今年、好んで「コンピュテーショナルオーディオ」という言葉を使っているが、これもカメラの改良で取り組んできたことの延長線上にあるものだ。
アップルが狙うのは、カメラやオーディオといったアナログ技術や感性に根差してきた製品領域に対して、最終的に自分たちが得意なソフトウェアや半導体の技術で問題解決し、独自の競争力を得るというアプローチ、戦略だ。
アップル製ヘッドホンとしては最初の製品となるAirPods Maxだが、演算能力でさまざまな新しい体験をもたらすコンピュテーショナルオーディオの方向性を示すものになっている。その出発点だと考えるべきだろう。
つい先日、出荷が開始された低廉なネットワークスピーカー「HomePod mini」(1万800円)も、内蔵する独自チップでさまざまな機能、新しい操作性、サイズに見合わない音質を実現していたが、その源流は贅沢に多数のドライバーユニットとマイクを搭載したオリジナルのHomePodにある。
HomePodは発売後、さまざまなアップデートで音質と機能を強化し、そのノウハウがHomePod miniへと生かされている。
個人差と環境差を「演算能力」で解決
アップルはコンピュテーショナルオーディオ技術で、オーディオ製品が抱えてきた本質的な問題の一つに取り組んできた。それは「設置」に関する問題だ。
心地よい音を楽しみたいならば、スピーカーを正しい位置、正しい方向に設置しなければならない。簡単なようだが、実はなかなか難しい。スピーカーの正しい設定のセオリーはもちろんあるが、心地よく音を楽しめる場所は限られている。
もちろん、理想的な位置はあらかじめわかっているので、視聴位置を固定して動かなければ問題はない。しかし実際にはつねに理想的な位置で音楽を楽しめるわけではない。部屋の中を移動していても、どこからでもある程度以上の質は欲しい。
オリジナルのHomePodは、そうしたオーディオの本質的な難しさを取り除くことに挑戦していた。スピーカーが置かれている位置に応じて、自動調整を行う機能を備えることでこの問題に挑戦していた。
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