アップル「初ヘッドホン発売」が意味する戦略 iPhoneのカメラに続き「演算能力」で問題解決

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高性能のドライバユニットや快適なイヤーパッドといったヘッドホンとしての基本を押さえながら、独自のH1チップによる信号処理で差別化を狙う(画像:アップル)

オーディオの質を演算能力で高めるアプローチは、これまでもiPhone、iPad、Macなどでも継続的に取り組んでいたが、それらの中では独自設計のチップが重要な役割を果たしてきた。AirPods Maxでは、10コアのオーディオ処理専用コアを搭載するH1チップが2個搭載され、その役割を担っている。同チップはAirPodsシリーズに共通して搭載されているものだ。

AirPods Maxでもまた、HomePodと同じようにマイクで集めた情報を信号処理し、装着状態に合わせて音質のチューニングを自動的に行う。例えば、メガネの有無、髪型、イヤリングの有無などでイヤーカップ内の音響を、イヤーカップ内に配置されたマイクで情報収集しながら、毎秒200回の頻度で検出、調整をかけていく。

AirPods Proでおなじみのアクティブノイズキャンセリング機能も、演算能力の向上や使用するマイクの数(片耳あたり外向きに3個、内向きに1個)に伴い向上しているようだ。

同じくAirPods Proが先日対応した空間オーディオにも、よりよい品質で対応する。空間オーディオとは、5.1、7.1チャンネルのオーディオやドルビーATMOSのコンテンツを仮想的にサラウンド音声として表現するバーチャルサラウンドの機能と、頭を動かした際に音源が出ている方向が変化しないよう調整する「ダイナミックヘッドトラック」という仕組みを組み合わせたものだ。

この機能は現在のところ、iPhone、iPadでしか利用できない。画面とAirPodsの位置関係を把握することがテレビやMacではできないためだ。しかし、一度体験してみると、その自然な音の動きに驚かされる。

「商品力を高める手段」を変化させ、競争軸を変える

数年前ならば、高級ヘッドホンでワイヤレスという選択肢はなかった。有線のほうが音質的には有利であり、またバッテリーやデジタルの処理チップなどが搭載されていないアナログ製品ゆえに、陳腐化せず長く生き残ることができる製品を開発しやすかったからだ。

しかしアップルは商品性を高めるために伝統的なアナログ製品のチューニングや味付けで差別化するのではなく、独自チップとソフトウェアの組み合わせでさまざまな体験レベルを高める方向へと競争軸を変えようとしている。

最上位となるAirPods Maxには、コストをかけたヘッドバンドやイヤーカップ、形状記憶素材を用いたパッド、自由度の高いヒンジ構造、それにリニアリティの高い高性能なドライバーユニットなど贅沢なハードウェア構成を採用しており、Digital Crownなど操作性にもコストをかけている。
しかしそうした”高級オーディオ製品”としての側面に目を奪われるとアップルの戦略を見誤る。

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