アップル「初ヘッドホン発売」が意味する戦略 iPhoneのカメラに続き「演算能力」で問題解決

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バッテリーは機能をフルに使っても20時間もつという。写真の専用ケースに入れることで超低消費電力モードに入りバッテリーの無駄使いを未然に防止する(画像:アップル)

本当の違いはライバルが手を出しにくい、半導体とソフトウェアに融合、さらにはiPhone、iPad、Apple TV、Macといったデバイス、それにApple Musicなどのネットワークサービスとの密なる統合と、それによるユーザー体験の改善だ。

実際、従来のAirPodsシリーズもここ数年で大きく使いやすさが向上してきており、そのすべてがAirPods Maxでも利用できる。

Apple IDで利用するどれか一つのデバイスでペアリングすれば、すべての所有するデバイスで自動ペアリングされ、Siriも音声で呼び出せる。1台の端末からの音声を複数のAirPodsシリーズで聴くオーディオシェアも動作する。

メッセージ着信読み上げ、ボイスメッセージ代わりのインターコム、デバイスを持ち替えたときに自動的につながっているデバイスが切り替わるシームレスデバイススイッチも同様だ。

通話する際の音声を、複数マイクからの音声信号処理で話者の声だけを高音質に捉える機能にもiPhone譲りの技術が使われている。

ポータブルオーディオ市場に侵攻する第一歩

AirPods Max自身が、その価格に見合う音質や体験をもたらしてくれるかどうかは、実際の製品を使って見極めることにしたい。

一方で現時点でわかっていることをまとめるならば、この製品はポータブルオーディオの世界における競争軸を変えるための最初の一歩といえる。
HomePodをリリースしたのち、ファームウェアのアップデートとともに機能を熟成。その後、HomePod miniが生まれたように、今後、このジャンルの製品を変えていくスタート地点としてAirPods Maxが投入されたという印象だ。

しかしHomePodの頃と異なるのは、すでにアップルが音楽配信で多くのユーザーを獲得し、映像もストリーミングで楽しむ人が増加。さらにオーディオ関連の技術蓄積も重ねたうえで、独自チップまで投入していることだ。

AirPods Maxの投入は、その後、他のAirPodsも含めてドラスティックに進化していくことを予感させる。AirPods Maxはアップル製品以外との互換性をうたっていないため、厳密にいえばすべての製品、状況でライバルと競合するわけではない。

とはいえ、ソニーやBOSEなどノイズキャンセリングヘッドホンで一定の地位を確立しているメーカーにとっても、新しい一歩を踏み出すための大きな刺激となるに違いない。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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