アメリカの映画館「倒産続出」は避けられない訳 ワーナーがついに開けた「パンドラの箱」の衝撃

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ワーナーに先んじてディズニーも配信をビジネスの中心に据えようとしている。今年10月、ディズニ−は大きな組織改革を行った。そこでは作品は劇場用か、配信用かを決めずに作られる。

配給、配信はひとつの部署が管理し、クリエイターが「僕はこれを劇場用に作ったんだ! 配信に回すなんて許さない!」などと口出すことはできない。それはトラブルを避ける点でもディズニーにとって都合がいい。

ディズニーは『マンダロリアン』のような大型予算をかけた作品をDisney+のために作っているし、コロナ禍で劇場用に作られた映画が配信リリースになることも増えて、すでに配信用映画は劇場公開映画に劣るという構図も崩された。もはや劇場主にとって最悪の状況だ。

これまで劇場はテレビでは提供できないハイクオリティの作品を提供する場所だった。配信が勢力を増してきた近年もシートをアップグレードしたり、クラフトビールやセンスのいいワインを提供するバーをロビーに設置するなど、必死で差別化を図ろうとしてきた。

しかし、その積極投資がコロナによって足かせとなってしまった。あちこちの劇場を買収しまくったAMCはとくにそうだ。

コロナが始まった当初、AMCは11月の感謝祭までには通常に戻っていることを前提に負債を組み直した後、「12月末までに新作がなければ倒産する」と言ったが、また新たに資金を調達していたところだった。

近い将来「劇場の閉鎖や倒産」が続出する

ワーナーとディズニーの映画がすべてではないとはいえ、もはやアメリカの大手シネコンチェーンの倒産や、少なくとも一部シアターの閉館は避けられない。

ただし、少なくともこの傾向は当面アメリカだけにとどまりそうだ。HBO Maxの対応エリアは現在アメリカのみ、海外ではイギリスを含むヨーロッパの一部で2021年末に始まる見込み。日本など全世界に広がっていくのには、もう少し時間がかかる。

それに、『鬼滅の刃』が見せつけたように、日本の邦画はまだ元気がある。劇場がなくなる心配は今のところ無用だろう。

とはいえ、ディズニーがこれからも劇場用映画を配信に回し、数年後には日本にもHBO Maxが入ると予測される中、日本の劇場からもハリウッド大作が少しずつ減っていくことは間違いない。

ヨーロッパ映画やインディーズ映画はそれぞれの国で配給が付くのでこれからも劇場でかかるが、ハリウッドのメジャー作品は、日本人にとっても、そのうち配信で見るものになっていきそうだ。古くからの洋画ファンには、なんとも複雑なことではないか。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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