名探偵が関係者を「全員集合」させたがるワケ 事件の解決は論理的に魅せることが大切だ

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アームチェア・ディテクティブという設定は書き手の創作欲をくすぐるのか、アガサ・クリスティーに、ミス・マープル初登場の『火曜クラブ』、アイザック・アシモフに〈黒後家蜘蛛の会〉シリーズ、都筑道夫には〈退職刑事〉シリーズなどがあり、給仕、引退した刑事など、探偵役の設定を様々に変え、多くの短編が書かれている。

もっともオーソドックスかつ「お約束」な解決編の導入は、警察であれ探偵であれ、関係者を一堂に集め、「さて」と言葉を発して、おもむろに推理の披露を始める、というものだ。

古くからの探偵小説ファンには、これがたまらない。「いよいよ解決編が始まるんだな」と胸が躍るし、関係者が集められる場所は事件現場であることが多いから、現場検証もその場で行える。何より、事件は解決したのに犯人の所在が不明、ということがない。

関係者の心理状態から読み解くことも

さらに、話を聞いている関係者の様子を描写し、彼らの心理状態を伝えることもできる。もっとも、最初からわかりやすく動揺している人物は真犯人のはずがない、というのは、何冊かミステリを読めば自然と分かってくるのだけれど。

中には、文章では顔が見えないのをいいことに、犯人が指名される前の場面で、

「そんな馬鹿なことがあるか!」と、犯人は言った。

というような、遊びを入れてくる作品もある。

関係者を集め、手掛かりという名の伏線を丁寧に拾いながら、容疑者の数を絞っていく。犯人を指名する際は、疑いの余地なく、1人を指し示さねばならない。いかにとぼけられ、誤魔化され、開き直られても、証拠とロジックで、ぐうの音も出ないほど、完膚なきまでに犯人を叩きのめすのだ。

犯人限定の方法としていちばんわかりやすいのは、「その人物しか犯行をなしえなかった」のを示すことだ。限られた容疑者の中で、時間的、空間的に犯行が可能だった人間は1人しかいない、と示せばいい。

犯行時間に確固たる不在証明(アリバイ)があれば犯人ではなく、アリバイのない人間が1人しかいなければ、それが犯人だ。ただし、すぐ1人に絞られては面白くないから、ミステリではあの手この手で、アリバイを二転三転させたり、犯行時間や場所を誤認させたりする。

死亡時刻は、死体の状態や傷み具合から推定されるから、気温など、保存状態の影響を受ける。エアコンや冷蔵庫を駆使したり、水に浸けておいたりすることで環境を操作し、時間を誤認させ、その間のアリバイを作っておく、といった具合だ。

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