名探偵が関係者を「全員集合」させたがるワケ 事件の解決は論理的に魅せることが大切だ

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

ただし、登場人物全員のタイムテーブルを出して、細かく人の出入りを説明し始めたりすると、読んでいるほうは段々面倒になってきてしまうから、程度には注意が必要だ。主要な容疑者数人のアリバイに絞るとか、そこに固執する真犯人のアリバイを崩すとか、簡潔に見せる方がいい。

アリバイ物の古典的名作と言えば、『黒いトランク』(鮎川哲也)で、焦点は「黒いトランク」の動きというシンプルな謎ながら、そこには鉄壁のアリバイが立ちはだかり、何とかその壁を崩そうというもの。

一貫してアリバイ崩しで話は進むのだが、新たな証拠や人間関係が判明するたび、推理は二転三転し、飽きることがない。複雑怪奇なアリバイトリックかと思いきや、最後は盲点を突いた非常にシンプルなところに帰着する。実際の時刻表を載せるなど、今日まで続くトラベルミステリの源流とも言える。

アリバイのあれこれを詳しく知りたいならば、『マジックミラー』(有栖川有栖)をお勧めする。作品そのものも、アリバイ崩しと、ある物の動きを追う現代版『黒いトランク』とでも言うべきなのに加え、作中に「アリバイ講義」があり、種々のアリバイが分類整理、解説されているのだ。具体的な作品名はそこでは書かれていないから──文庫版のあとがきでは、知りたい人には分かるようになっている──、ネタバレの心配はない。

ここまではいわば、外堀から埋めていく方法。徐々に容疑者を減らしていき、最終的に1人に絞り込む。最もオーソドックスな王道である。

犯人だけが知っている場合も

それとは逆のアプローチとして、一足飛びに犯人に到達する手法もある。「犯人しか知り得ない事実」を用いる場合だ。

例えば、報道では死体のあった場所について一切触れられておらず、しかも特殊な状況なのに──廃屋内の水を張った浴槽で、タキシードを着たまま死んでいた、など──それを知っていたとしたら、間違いなくその人物が犯人だ。実際の犯罪捜査でも、タレコミや自供の真偽を確認するため、報道に載せない情報を敢えて残しておくケースもあると聞く。

この「犯人しか知り得ない事実」を限定要素として使った作品は多い。限定のためのキーが何であるかが腕の見せ所なのだが、綺麗に決まれば問答無用に一点を指すため、大きなカタルシスと爽快感を与えることができる。

次ページ逆に犯人だけが知らないパターンもある
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事