ドンキ前社長「知人に株購入勧め逮捕」の妥当性 知っておきたい金融商品取引法のポイント
TOBの場合、株式を買う側としては、当然その時点の市場で取引されている価格で購入したいと考えます。しかし、売る側としては「それほど売ってほしいなら、もっと高い価格で買ってくれ」と考えるのも当然です。
買う側は、市場価格より多少高く買い付けてもその投資以上に回収できると考えて買収を決めるわけですから、市場価格に一定金額を上乗せした買付価格を提示するのです。この上乗せは買収プレミアムと呼ばれます。
そして、TOBの際の買収プレミアムの相場(平均)は、ここ数年、市場価格から20%~40%程度で推移しています。TOBとなれば買収される側の株主は、それだけのプレミアムを得られるわけですから、TOBが発表されると途端に株価が跳ね上がるのです。
ドンキ株の2018年9月3日の終値は、1株当たり5480円でした。その後、株価はいくぶん上昇し、10月9日の終値は5530円でした。
その翌日、今回のTOBが報道されると、プレミアムを想定した投資家の買い注文が集まり、前の日の終値から1日で520円上昇して6050円となりました。さらに翌11日にTOBが正式発表されると、株価はさらに630円上昇し、その日の終値は6680円となりました。9月3日の終値と比べると1200円、約21%上昇したことになります。(さらに、株価は上昇し、11月26日に同年の最高値をつけています)
不自然な取引はすぐに選別される
東京証券取引所は、2007年に東京証券取引所自主規制法人という法人を設立しました。この自主規制法人が取引所の委託を受けて、株式取引の審査などを業務としています。TOBが発表され、株価が上昇した場合には、証券会社からの情報提供を受けた同法人が、TOB発表の前に株式を購入した取引、関係者の取引などを調査します。
証券取引所では日々、大量な数の取引がなされており、そのすべてを監視することは不可能にも思えますが、不正な取引はほぼすべて抽出されます。具体的にどのような方法で監視しているのかについては公表されていませんが、高性能のコンピューターシステムにより不自然な取引はすぐに選別されるようになっているはずです。
このような不自然な取引は自主規制法人から金融庁の審議会である証券取引等監視委員会に報告されます。同委員会は質問や検査といった任意調査だけでなく、裁判官の発する許可状により捜索、差し押さえといった強制調査をする権限まで与えられています。
今回のケースでも、委員会は昨年11月と今年8月に、大原容疑者の関係先を強制調査し、今回の逮捕につながりました。
重要情報を入手しやすい弁護士や会計士、政治家、マスコミ関係者などが念入りにチェックされていることは想像に難くないですが、中でも当事者となる会社の役員は最も厳しくチェックされているはずです。
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