首相と知事の「ちぐはぐ」が散見される根本要因 政治改革と分権改革で国と地方の調整は困難に

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とはいえ、現在の日本の法制度の下で、政権がすべての政策分野に対して法的な影響力を持っているわけではない。感染症という政策分野では国に加え、都道府県、そして、保健所設置市・特別区が感染症に対処する政策を立案し、実施する権限を持つ。新型インフルエンザ等対策特別措置法、感染症法などの個別法、さらには国と地方公共団体の関係全般を規定する地方自治法の下では、政権が地方公共団体に指示を下す余地はある。

しかし、実際の個別法の運用上、それは難しい。加藤勝信・現官房長官の厚生労働相時代の発言を引用すれば、感染症対策の分野においては国、都道府県、保健所設置市・特別区の間は「フラットな関係にある」。国が担当する政策分野においていくら首相が強い権力を誇っても、地方公共団体が権限を持つことが法律で決まっている政策分野は「首相支配」の版図外であり、首相の指導力は制約される。

首相と知事の齟齬

首相と都道府県知事、保健所が同一の政策を実施することを目指せば、政策の実施は迅速かつ統合的に行われることが期待できる。

ただ、新型コロナウイルス感染症に対する対応では、安倍政権と知事や保健所が常に同じ姿勢を持っていたわけではなかった。

特に医療提供体制の確立、休業要請の内容、経済振興の進め方をめぐって、安倍首相と東京都知事などの間で齟齬が生まれた。このため、安倍政権が期待するような形で医療提供体制の準備は進まなかった。また、安倍首相が想定したのとは異なった形で休業や時短営業の要請がなされることになった。

さらに、安倍政権はGoToキャンペーンの実施方法を見直すことを余儀なくされた。一方、第1波のときに一部の保健所は独自の判断で、政権が想定するより厳しい基準で検査の手配を行った。さらに、安倍首相が大きな権力を持っていても、安倍政権が希望したような形で、繁華街において接待を伴う飲食店に対する集中検査が広く行われるようになったわけではなかった。

こうした「フラットな関係」が生まれた要因については、1990年代以降のさまざまな制度改革を総覧する待鳥聡史氏の最近の研究が貴重な知見を与えてくれる。待鳥氏は政治改革、省庁再編のほか、司法制度改革、地方分権改革などを対象に改革の背景や帰結について分析している。

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