首相と知事の「ちぐはぐ」が散見される根本要因 政治改革と分権改革で国と地方の調整は困難に

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重要な議論は次の2点である。第1に、各改革は個別に行われたため、日本の公共部門のなかで集権化と分権化が同時に進み、全体として整合性を欠くことになったこと。第2に、地方分権の結果、国から地方への権限委譲が進み、地方公共団体の自律性がさらに高まったこと。

1994年の政治改革以降、首相の指導力は高まった。しかし、分権改革も実施されたために国と地方公共団体の調整は以前より困難になったわけである。

首相の指導力と地方分権制度

これまで政府内で首相の指導力が強化されてきたことを踏まえ、首相の指導力を制約する要因として国会制度、参議院制度が注目されてきた。コロナ危機をめぐる政治過程は、地方公共団体が担当する政策分野においては、特に首相と都道府県知事と意見が異なる場合に、首相の政策立案は知事の意向によって制約されることを明らかにしている。さらに首相が都道府県知事の担当する分野において特定の政策の実現を望むのであれば、知事との調整が必要であることも示している。

近年、国と地方公共団体の政治制度が違うことや所掌事務および権限が異なることが政治組織や政治過程に及ぼす影響は研究者の関心を集めてきた。ただ、政策分野によって国と地方公共団体の持つ権限がいかに違い、その違いが首相の指導力に及ぼしてきた制約について体系的研究が行われてきたということは難しい。このため、今後さらに分析を深める余地が広がっている。

首相が関与する政策分野において、都道府県、あるいは政令市・特別区も権限を持っている場合、首相の指導力は制約される可能性が高く、そのことを念頭において分析を行う必要がある。

これまでも例えば、沖縄県におけるアメリカ海兵隊普天間飛行場の辺野古移設問題に見られるように、地方公共団体の持つ権限が時の政権の政策形成に影響を及ぼすことはあった。しかし、国と地方公共団体の権限関係の摩擦が直ちに多くの国民に影響を与えるような事例は多くなかった。

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これに対し、コロナ危機の特徴は、安倍政権と地方公共団体の関係が多くの国民に直接大きな影響を及ぼしたことである。果たして、国と地方公共団体の関係が首相の指導力を制約し、国民生活に作用するような政策分野がどれほど存在するのかを探ることは、今後の重要な研究課題である。

最後に感染症について言えば、感染症はその性質上、一部地域での対応の結果が全国的な影響を及ぼす問題である。一部の地方公共団体の対応が遅れ、その地域で感染症が拡大した場合には、そこから他の地域にも波及する恐れが高い。

現在の法制度の下では、一部の地方公共団体の対策が遅れる場合に、国や影響を受ける他の地方公共団体が対応する術がほとんどない。したがって、感染症対策について現在の国と地方公共団体の権限関係をあらためて精査し、権限配分が的確なのか、そのあり方を再検討する段階に来ている。

竹中 治堅 政策研究大学院大学教授

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たけなか はるたか / Harutaka Takenaka

1971年東京都生まれ。1993年東大法卒、大蔵省(現財務省)入省。1998年スタンフォード大政治学部博士課程修了。1999年政策研究大学院大助教授、2007年准教授を経て現在、教授。主な著書に『参議院とは何か 1947~2010』(中央公論新社/2010年/大佛次郎論壇賞受賞)など。

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