首相と知事の「ちぐはぐ」が散見される根本要因 政治改革と分権改革で国と地方の調整は困難に
首相の指導力
2019年12月31日に中国・武漢市において原因不明のウイルス性肺炎の発症が報告されてから、2020年9月16日に第4次安倍第2次改造内閣が総辞職するまでの政治過程は、日本の権力構造についてどのような意味を持っているのか。この過程はこれまでの研究とは異なる、現在の首相の指導力のあり方の1つの特徴を明らかにしている。
これまで多くの研究者が、1994年の政治改革と2001年の省庁再編の結果、首相の権力が拡大したことを論じてきた。筆者は首相が強い指導力を発揮できるようになった政治状況を「首相支配」と形容している。2014年に公務員制度改革が行われたことにより首相の権力はさらに強化された。
2012年12月に再登板を果たした安倍晋三・前首相は強化された権力を十二分に活用し、さまざまな政策を実現し、憲政史上、最長となる在任記録などを打ち立てた。こうした政治状況は安倍「1強」とも称された。
首相は人事権を行使して大規模な金融緩和を行うために日銀総裁に黒田東彦氏を起用した。国内経済政策の面では電力自由化、法人税減税、コーポレートガバナンス改革、訪日外国人拡大などを実現する。その一方で、労働政策として残業時間に関する厳しい規制を設けることに成功する。
対外政策面では、日・EU経済連携協定を2017年12月に、さらに、TPP11交渉を2018年3月に調印に導いた。安全保障政策の面で、安倍首相は2015年9月に安保関連法制を成立させ、一定の条件の下で集団的自衛権を行使することに道を開いた。
コロナ危機をめぐる政策決定過程は、政治過程における首相の指導力について新しい1面を示し、我々に「首相支配」が成立する条件についてあらためて考える契機を与えてくれる。
すなわち首相は、首相が率いる政権の権限が及ぶ政策分野においては、与党勢力が衆参両院で過半数を確保していることを前提に、強い指導力を発揮することができる。
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