「関税でアメリカを再び豊かにする」というトランプ大統領の政策が"愚策"といえる決定的理由

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相互関税の検討を指示する大統領令に署名するトランプ氏。しかし、現実は彼の思惑どおりに進むとは限らない(写真:UPI/アフロ)
ドナルド・トランプ大統領は製造業をアメリカに戻すために関税を乱発している。しかし、アメリカの生産体制にしても、教育体制にしても、「海外での生産」を前提にした仕組みになっている。これを変えるのは極めて難しい。もし強行すれば、アメリカの生産性は著しく低下するだろう――。野口悠紀雄氏による連載第142回。

工場をアメリカに戻すのは容易ではない

トランプ大統領による関税が、アメリカの経済を大きく撹乱している。関税をかけることによって工場がアメリカ国内に戻り、アメリカ国内の労働者の仕事が増えるとトランプ大統領は言っている。

確かに、関税の税率が上がり、それが販売価格にも転嫁されれば、輸入品の価格競争力は低下する。しかし、だからといって、輸入が国内生産に直ちに転換するわけではない。

最大の問題は、アメリカの製造業がもはや全工程を自国内で完結するような形になっていないことだ。

部品は海外で生産されている場合が多い。さらに、エンジニアの教育・育成システムも、従来とは大きく変わっている。だから、国内生産への切り替えは、非現実的なまでに多額のコストを要することになってしまう。

このようになるのは、アメリカの製造業が「設計だけを行い、製造は海外の受託会社に任せる」という方式に移行しているためだ。こうした変化を実現した製造業は「ファブレス製造業」と呼ばれる。

この方式で成長した典型企業がアップルだ。設計はアメリカで行うが、部品はアジア諸国をはじめとする海外で製造される。そして最終的には、台湾のEMS(電子機器の受託製造企業)である鴻海精密工業が中国に保有する巨大な工場で組み立てている。これによって、アジア諸国の安い労働力を用いて、非常に高度な製品を作ることが可能になった。

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