
工場をアメリカに戻すのは容易ではない
トランプ大統領による関税が、アメリカの経済を大きく撹乱している。関税をかけることによって工場がアメリカ国内に戻り、アメリカ国内の労働者の仕事が増えるとトランプ大統領は言っている。
確かに、関税の税率が上がり、それが販売価格にも転嫁されれば、輸入品の価格競争力は低下する。しかし、だからといって、輸入が国内生産に直ちに転換するわけではない。
最大の問題は、アメリカの製造業がもはや全工程を自国内で完結するような形になっていないことだ。
部品は海外で生産されている場合が多い。さらに、エンジニアの教育・育成システムも、従来とは大きく変わっている。だから、国内生産への切り替えは、非現実的なまでに多額のコストを要することになってしまう。
このようになるのは、アメリカの製造業が「設計だけを行い、製造は海外の受託会社に任せる」という方式に移行しているためだ。こうした変化を実現した製造業は「ファブレス製造業」と呼ばれる。
この方式で成長した典型企業がアップルだ。設計はアメリカで行うが、部品はアジア諸国をはじめとする海外で製造される。そして最終的には、台湾のEMS(電子機器の受託製造企業)である鴻海精密工業が中国に保有する巨大な工場で組み立てている。これによって、アジア諸国の安い労働力を用いて、非常に高度な製品を作ることが可能になった。
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