「関税でアメリカを再び豊かにする」というトランプ大統領の政策が"愚策"といえる決定的理由

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半導体もそうだ。設計はエヌビディアなどのアメリカ企業が行うが、生産は台湾のTSMCなど海外企業が担う。自動車の場合、いまだにアメリカ国内で生産されているが、それは最終組み立て工程であって、部品はアメリカ国外で生産し、輸入している場合が多い。

製造業がファブレス化することによって、アメリカ経済の生産性は著しく高まった。それによって、1980年代の停滞期から脱却して、新しい経済を作ることに成功したのだ。

もしトランプ大統領が考えているように工場がアメリカに戻れば、アメリカの生産性は低下して、1980年代の経済停滞時代に戻ってしまう。アメリカが成功した「製造業の進化」を否定し、それを元に戻すのは、まことに愚かなことだ。

アメリカ経済はすでにこのように変わってしまったので、もはや変えることはできない。アップルは対中関税に対応して、アメリカに投資するという計画を発表した。しかし、これはトランプ大統領に向けたジェスチャーであって、実際的な内容はあまりない。

工場を戻すには「古い分野のエンジニア」が必要

そうはいっても、高率の関税がかかれば、国内生産のほうが有利だろうと考えられるかもしれない。実際、メキシコに対する関税が引き上げられ、今後も自動車関税の引き上げが予定されていることに伴い、自動車メーカーはメキシコなどでの生産をアメリカにシフトさせる可能性に言及している。

しかし、これは簡単なことではない。仮に工場を作り、労働者を集めたとしても、それだけで生産はできない。生産システムを大きく組み直さなければならない。例えば、部品のサプライチェーンを再構築しなければならない。エンジニアの確保も重大な問題だ。

ところが、アメリカがファブレスに移行したのは2000年ごろのことだから、すでに20年以上の歳月が経っている。だから、自動車生産などの古いタイプの製造業で必要だったエンジニアは、アメリカではかなり少なくなっているはずだ。

この状況を、アメリカの「levels.fyi」という転職情報のサイトで見てみよう。同サイトには、さまざまな企業の各業種ごとに、給与水準が実に詳細に掲載されている。

アメリカ全体の平均で見ると、機械工学のエンジニアの年間報酬は592万円であるのに対して、ソフトウェアエンジニアの年収は876万円と、5割近く高い(報酬には、基本給のほかにストックやボーナスを含む)。

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