このように、ファブレス製造業が増えたために、企業におけるエンジニアに対する要求も大きく変わってしまっている。ソフトウェアエンジニアに対する需要は大きいが、伝統的な分野である機械工学のエンジニアに対する需要はそれほど大きくない。このため、給与水準も低くなってしまっているのだ。
大学の工学部における学生数の差が示すもの
こうした変化に対応して、アメリカの大学の工学部では、機械工学など従来型のエンジニアの教育は著しく縮小している。そして、学生定員をコンピューターサイエンスに振り向けている。
スタンフォード大学工学部の学部学生の定員を見ると、以下のとおりだ(数字が定員)。
修士課程で見ると、コンピューターサイエンスが620であるのに対して、電気工学が247、機械工学が288など。博士課程で見ると、コンピューターサイエンスが386であるのに対して、電気工学が326、機械工学が267など。とくに修士課程において、コンピューターサイエンスの比重が著しく高くなっている。
トランプ大統領の関税政策は、最先端分野ですでに生じているこのような大変化をまったく無視したものなのである。
関税がかかれば、それが輸入品の価格に転嫁されるため、アメリカ国内の物価が上昇する。これは自動車関税や対メキシコ・カナダ関税による影響だけではない。対中関税の影響も大きい。前回の本連載で述べたように、中国の対米輸出はスマートフォンなどの電子製品が多いからだ。
こうした関税の負担は、まずアメリカ国内の消費者にかかるが、日本人も影響を受ける。例えば、アップルのiPhoneは前述のように中国で製造されているので、(対中関税が免除されなければ)アメリカ国内での販売価格が高くなる。
すると、アップルは世界中のiPhoneの価格を引き上げざるをえなくなる。そうしなければ、日本で買ったiPhoneのほうが安いため、それをアメリカに輸出するという流れができることになるからだ。
トランプ大統領の関税引き上げは、輸出型産業に携わる日本人だけではなく、さらに広い裾野の日本人が他人事として傍観しているわけにはいかない問題なのである。
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