長野県は、なぜ日本一幸せな県になれたのか 寝たきりを経験した長野県知事だから、見えたこと(下)

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日本の学校教育は、子どもを型にはめすぎている

坂之上:「日が当たりづらいところにもしっかり目を向けよう」という取り組みのひとつとして、発達障がいの子どもたちの教育の場を作られるそうで?

阿部守一(あべ・しゅいち)
長野県知事

1960年東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、自治省(現・総務省)に入省。本省勤務のほか、山口県、岩手県、神奈川県、愛媛県などへの出向も経験し、地方自治の現場で活躍する。2001年、長野県企画局長に就任。同年10月からは副知事を務める。2007年、横浜市副市長に就任。2009年、内閣府行政刷新会議の事務局次長に就任し、事業仕分けに関わる。2010年8月、長野県知事選挙に出馬し初当選。

阿部:はい。この4月からNPOの「翔和学園」に県の施設を貸して、「長野翔和学園」っていうのを始めています。

坂之上:どういう役割の場になるんですか。

阿部:発達障がいの子どもたちって、すごく多様じゃないですか。私は、そういう子をちゃんと伸ばしてあげたいと思っています。

坂之上:デンマークの教育では発達障がいの子どもたちも、おいてきぼりにしませんよね。そういう凸凹のところに力をいれているからこそ、デンマークは教育全体がものすごく伸びているのですよね。

阿部:はい。今は日本の教育の仕組みや社会が、変に画一的になっているんですよ。

坂之上:それが問題だって、みなさんわかってはいるんですけど、なんだか突破口がなかなか見つからない。

阿部:学校教育の仕組みに子どもの身の丈を合わせようとするあまり、「この時期にこれができてなかったら、あの子はだめだ」みたいな話になっちゃって。全然、柔軟性がない。むしろこれからは、子どもに合わせて教育を設計しなきゃいけないと思ってます。

坂之上:本当にそうですね。

阿部:NPOの翔和学園って、こんな教育を1日やったら、へとへとになるだろうというパワフルさなんです。子どもたちの関心をそらさないし、しっかり同じ方向を向いて関心を持たせ続けて、コミュニケーション能力を鍛える教育をします。

そこを見学したときすごく衝撃を受けて、「こういう教育をぜひ広げたい」と言いました。そしたら、翔和学園の方が「阿部さん、みなさんそう言うのです」って言うわけです。これ、今もすごく覚えてますけど。

坂之上:はい。

阿部:国会議員も来るし、役所の人たちも来るし、自治体の人たちも来る。みんなすごいって言う。だけど、実際はだれも動かないって。

その言葉にね、ずっと公務員をやってきた人間として、私はショックを受けました。こんなにみんな見に来て「すばらしい」って言いながら、それを実践しようとしない。これは一体どうなってるのかと。

坂之上:見学だけで満足してしまう?

阿部:はい。役所は何にもしてくれないって厳しく批判されたり、大きなショックを受けたり、私はそういう経験をして、役所は役所の限界を超えなきゃいけないなと、強く思うようになりました。

坂之上:役所が、役所の限界を超える。なんだかすごく重要なワードですね。でも、型どおりのことをやらないと、批判する人が多いじゃないですか。

阿部:そうですね。でも、ここで得られた発達障がいの子どもたちの教育のノウハウを、県の小中学校に共有することは重要なことだと思っています。

坂之上:発達障がいは、クラスに数人はいると言われていて、でも、今の日本の教育では、フォローしきれていないところですよね。

 阿部:最近思うのは、やっぱり教育が間違っているんじゃないかということです。記憶してアウトプットすれば頭がいいとかになっちゃう。もっと自分の頭で考える教育をしていかなきゃいけない。

坂之上:自分で考えることができる。本当に大事ですよね。

阿部:そうなんです。「必ず最後は正解がひとつある」みたいな教育ではいけないような気がします。唯一絶対の正解なんか、世の中にほとんどないですよね?

坂之上:はい。生きていると、絶対の正解ってないです。大人になっても、毎日これでいいのか、って迷ってる。

阿部:だけど思考停止状態になっている人が多い。今までこうだったから、そのとおりにやるというのはどうなんでしょう。日本では、立場や意見が違うと、ケンカを売られてるみたいな空気になってしまうときがあるじゃないですか。

坂之上:はい。意見が違う人を許さないという空気は、よくないと思います。

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