ときには視点を変えて

プロゴルファー/小林浩美

 春の陽気に誘われて、花も虫も葉っぱも動き出してきました。寒くて足の向かなかったゴルフ場にもボールを打ちに行きたくなる季節ですね。

ゴルフ場でこんなことがあったそうです。冬のある日、雪が薄く積もって白いボールでは見にくいので、3人がカラーボールを使うことにしました。そのゴルフ場にはカラーボールが大好きなカラスがいました。短いパー3で1番目に打った人のボールがグリーンに落ちるとそのカラスに持っていかれてしまいました。2番目に打った人もまた持っていかれてしまう。そうなると、次もカラスは今か今かと飛ぶ体勢を整えてこちらを見ているに違いない。3人目が打ったときには、ボールを打つと同時にカラスも飛び立って、ボールが落ちるやいなやそのくちばしにくわえられたそうです。まったくカラスも忙しかったことでしょう。カラスにすれば、何かの卵と間違えたのか、ただ単に「突撃!」とか言って遊んでいたのかもしれません。

また、ある本を読んでいたら、「動物はむさぼり、人間は食する。理性ある人間のみが、食べかたを知る」ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン(1755~1826)フランスの法律家・美食家、とありました。単純な私は、「そうだよね。動物はきちんとした食べ方を知らないモンね」、とそばにいた人に同意を求めたら、「猫だって猫なりにきちんと食べているのかも。食べたあと前足できれいに口の周りもなでているし。アフリカのライオンだって、必要な分だけ食べて残りはハイエナとかが食べているじゃない」と言われました。なるほどそうか、人間の視点からだからそう思うけど、動物の目から見たらきちんと食べているのかも、と考え直しました。

だとしたら打たれているゴルフボールはどう思っているのだろうと思いを巡らしました。打たれたボールは正直なので、打ったようにしか飛んでいきません。打つ人がどんな思いを抱こうが、アドレスした向きどおりの方向へ飛び、クラブを振ったスイング軌道とフェース面どおりの球筋、スライスやフック、真っすぐになります。ヘッドスピードでもボールの勢いや回転がつき、そのときヘッドの芯に当たったかはずれたかできれいな弧を描く弾道かライナーか、弱々しいか勢いがあるかなど、ボールはスイング全体の総合評価として、打たれたとおりに飛んでいくのです。調子がよいときは、芯に当たっていることが多いので「ヤッホー」とか言って気持ちよく飛んでくれているに違いありません。逆に調子のよくないときは、木に当たっても池に入っても、我慢強くお坊さんのように修行しているのかもしれません。優勝を決めるパットも、打たれるままに転がっていくのです。物言わぬボールは常に態度で示しています。

視点が変われば見える景色が変わります。ボールの振り見てわが振り直せ、ですね。

プロゴルファー/小林浩美(こばやし・ひろみ)
1963年福島県生まれ。89年にプロ初優勝と年間6勝
を挙げ、90年から米ツアーに参戦、4勝を挙げる。欧州ツアー1勝を含め通算15勝。現在、日本女子プロゴルフ協会(LPGA)理事。TV解説やコースセッティングなど、幅広く活躍中。所属/日立グループ。
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