若者が「退職代行サービス」を支持する真の理由 どうしても「NO」と言うのが嫌な若者たちの本音
「先生、退学の相談なんですが……」
数年前のことです。教え子のAさん(いま大学では学生には“さん付け”です)が私の研究室の入り口に顔を出しました。私は3つの大学(帝京平成大学、早稲田大学、お茶の水女子大学)で多くの学生に仕事やキャリアに関する講義をしています。
そのためさまざまな相談を受けていますが、退学なんて穏やかではありません。とにかく「中に入って、ゆっくり話そう」と入室を促した私は、ふと廊下にいるもうひとりの学生に気づきました。Aさんの友人のBさんです。
Aさんを心配したクラスメートが研究室まで付き添ってきたのだと思いました。とはいえ、教員の前でAさんがプライベートな話をするため、付いてきただけの自分は部屋に入るのまでは遠慮しているのでしょう。そこで、Aさんに「Bさんも一緒に聞いてもらっていいかな」と確認してみました。ところが、Aさんの返事は予想外のものでした。
「先生、退学の相談をしたいのはBなんです」
「NO」と言えない若者が増えている
ふつうなら、当事者であるBさんが最初に声をかけてくるはずです。退学することは、その後の人生にも関わってくる大きな問題です。なのに、付き添いのはずのAさんが前に出てくる。私が入室を促しても、相談者本人は研究室の入口でモジモジしている。
ようやく話し合いが始まっても、いくつかの退学理由をAさんが代弁する場面が多いのです。こんな体験をお話しすると、「Bさんはかなりシャイな性格なんだろう」とか、「相当気が弱そうだから仕方がない」と受け止める人もいます。
でも、じつはいま、Bさんのような行動を取る学生は決して珍しくありません。私は企業に勤めながらの非常勤講師時代を含め、約20年間、いくつもの大学や大学院で教員をしてきました。このような友人や家族が代わりに相談してくるケースは近年、とみに増えてきていると実感しています。最近の学生は、相手の意に沿わない意思表示をしたり、ネガティブな内容を伝えたりすることがとても苦手です。
つまり、NOと言えないのです。Bさんの例で言えば、大学を辞めるとの結論を出すまでには、相当悩んだはずです。しかし、教員の研究室まで来て「退学したい」と一対一で相談することも、耐えがたいストレスだったのかもしれません。面と向かってNOを言ったり、相手の意に反するような意見を表明するのは、彼らにとってはそれほど心理的ハードルが高いのです。
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