いまだ不透明「本当の保育士給与」問題の深刻 「保育の質」に結び付く重要な課題だ

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必要な経費が積み上げられて委託費が保育園に給付されている以上、実際に支払われている給与との差額を検証しなければならない。各地域区分の保育士の年収がいったいいくら公費で出ているかをまず国が公表しなければ、”利益優先に走る事業者”の排除はできない。

内閣府は2019年12月、「子ども・子育て支援新制度施行後5年の見直しに係る対応方針について」をまとめている。そのなかで、保育士の処遇改善を着実に実施するための方策として、「改善努力の見える化」を検討すべきとしている。

目下、社会福祉法人、株式会社、学校法人、宗教法人、NPO法人など会計方式の違う事業者がそれぞれに費用を計上するため、財務諸表の統一の必要性が議論されている。

地域区分ごとの年収を開示する必要性

筆者がこれまで保育材料費を比べたときには、社会福祉法人であれば、保育材料費は保育材料費として計上するが、株式会社は消耗品にするケースもあり、学校法人は実習費や図書費になるなど、バラバラの状態だった。詳しい内容を問い合わせると、現場保育士の証言などから保育材料費を満足にかけていないと踏んだ株式会社ほど「企業秘密」だとして答えなかった。経済界の要請により、会計基準は各法人でできるよう規制緩和され、使途が見えにくくなった背景がある。

さまざまな設置主体が登場することが想定されたなか、本来、会計基準は統一すべきで、介護の世界では既に会計基準の共通軸が設けられている。ただ、財務諸表は専門的でその整備には時間もかかる。あと4年のうちに「見える化」を実行するのであれば、財務諸表の統一や情報公開はもちろんだが、それぞれの保育園が人件費をどう扱っているかも「見える化」すべき課題でもあると考える。それには、まず、前述したように地域区分ごとの保育士の年収を示す必要がある。

そのうえで、例えば「常勤・正職員の保育士」に絞り込み、諸手当も含んだ「年収」という新しい指標を作って情報を開示することが必要なのではないか。委託費の原資は半分以上が税金で、保護者の払う保育料もあるのだから、誰もが委託費の使途、とくに人件費の行方を点検できるようにすべきだ。保育士が働きやすいよう人手を厚くするから給与が低めになるのか、利益優先でギリギリの人員配置で給与も低く抑えるのとでは同じ給与額でも雲泥の差があり、客観的にも把握できるようにする必要がある。

規制緩和から20年。税金が必ずしも有効に使われていない現状がある。委託費の弾力運用の規制強化が早期実現できないのだとすれば、せめて国は通知で地域区分ごとの年収を示すべきではないのだろうか。「子ども・子育て支援新制度施行後5年の見直しに係る対応方針について」に書かれた「見える化」の一言には重い意味があるはずだ。

小林 美希 ジャーナリスト

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こばやし・みき / Miki Kobayashi

1975年、茨城県生まれ。株式新聞社、週刊『エコノミスト』編集部の記者を経て2007年からフリーランスへ。就職氷河期世代の雇用問題、女性の妊娠・出産・育児と就業継続の問題などがライフワーク。保育や医療現場の働き方にも詳しい。2013年に「『子供を産ませない社会』の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。『ルポ看護の質』(岩波新書、2016年)『ルポ保育格差』(岩波新書、2018年)、『ルポ中年フリーター』(NHK出版新書、2018年)、『年収443万円』(講談社)など著書多数。
 

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