いまだ不透明「本当の保育士給与」問題の深刻 「保育の質」に結び付く重要な課題だ

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Aさんは「園児の折り紙代まで削られ、1日2枚しか使わせてあげられない。経営者は、保育なんて二の次で子どもをみていない」と憤る。

東京と隣接する埼玉県で株式会社が運営する保育園で働くBさん(仮名、30代後半)も、決して好待遇とはいえない。Bさんは園長のため年収は400万円ほどだが、クラスを受け持つ保育士の月給は手取り16万7000円。賞与の規定がなく夏はゼロ、冬も不支給であれば年収は280万円しかない。同園も次々に保育園を作り、満足に玩具を買えるだけの費用を渡されない状況だという。Bさんは「社長は給与が相場並みだというが、よくわからない」と首をかしげる。

事業者や地域によって出る賃金格差

国をあげての処遇改善や自治体独自の処遇改善が行われているが、保育士の賃金は事業者や地域によって大きく差が出る。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」から、都道府県別の保育士の年収実績を把握することができ、東京都は約410万円、周辺の埼玉県が約341万円、千葉県が約389万円、神奈川県が約392万円。最も低いのが岐阜県の約285万円となっている。

ただ、厚労省の調査はサンプル数が少なく正確な保育士の賃金の実態は掴みにくい。さらに、認可保育園の運営費である「委託費」は、保育に必要な経費が積算された単価を指す「公定価格」に基づいて計算されているが、園児の年齢や定員規模、そして8つに分けられた地域区分を掛け合わせて決められているため、地域差を見なければならない。

例えば同じ東京都であっても23区と武蔵村山市とでは単価が異なり、同じ乳児を預かるにも園児1人当たり月数万円もの収入の差がある分、保育士の給与額にも影響するからだ。

この「公定価格(基本分)」の内訳として、保育士の人件費の全国平均が「私立保育所の運営に要する費用について」という通知で、毎年度、内閣府によって公表されている。

同通知の2020年度の人件費(年額)を見ると、所長(園長)が約495万円、主任保育士が約466万円、保育士が約395万円、調理員等が約327万円とされている。「人件費」には賞与や地域手当等を含むが、法定福利費や処遇改善加算は含まない。ただ、これはあくまで全国平均だ。地域によっては、保育士の年額賃金が必ずしも約395万円とは限らない。

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