「高齢LGBT」を悩ませる、これだけの不安要素 「同性パートナーシップ制度」普及でも残る課題
今後別の自治体に引っ越すことになれば、入居を断られる心配もある。2人はこれまでに「同性カップルだから」という理由で、不動産の入居を何度も断られてきた。
「パートナーシップ証明には法的な効力がないため、自分たちで法的に有効な契約や遺言を作成し、できればそれを公正証書にしておくことは大切」。そう話すのは、行政書士でNPO法人「パープル・ハンズ」代表の永易至文さんだ。自身もゲイであり、著述のほか勉強会や相談を通じて、性的マイノリティの暮らしや老後の問題解決を支援している。
永易さんが勧めるのは重態になったときや認知症、死後など、本人が意思表示できないときに備えて、誰に何を委任しているのかを周囲がわかるよう明確に書面にすること。医療のキーパーソン指定や任意後見契約、死後事務委任契約などだ。その場合、費用はかかるが、公正証書として残しておくことで法的な有効性は強まる。
見えにくい「老後のモデル」
同性カップルは異性同士のような結婚、子育て、子どもの自立などのライフイベントを描きにくい。永易さんは「老後モデルが見えづらく、社会もまだまだ男女・異性愛仕様。性的マイノリティのコミュニティは性愛に立脚しやすいこともあり、若さに執着し、自身の老いから目をそらしがちな人もいる」と支援の難しさを語る。
伊藤さんたちより年上の世代では、性的マイノリティであること自体を公にすることができなかった。自身のセクシュアリティを隠し、異性と結婚している人もいる。「自分たちには老後のお手本がいない。だから入院や介護や老後が実際に起こってみないと、どうなるかはわからないところもある。体当たりでやっていくしかないんだと思います」。伊藤さんと簗瀬さんも現在、公正証書の作成に着手しているところだ。
こうした「自力の対策」が必要なのは、地域でパートナーシップ証明制度が広まる反面、国が同性婚の法制化に及び腰であるためだ。国には制度を所管する官庁さえなく、国勢調査でも同性カップルの数は集計されない。そもそも国内にどれほどの同性カップルがいるのかという実態把握も行っていないのが現状だ。
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