「高齢LGBT」を悩ませる、これだけの不安要素 「同性パートナーシップ制度」普及でも残る課題

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法制化の動きを加速させようと、2019年2月には同性カップルの結婚を認めないのは憲法違反であると問う全国で初めての訴訟が始まった。札幌、東京、名古屋、大阪の各地裁で提訴され、同年9月には福岡でも裁判が始まっている。初の判決は、札幌地裁で2021年3月17日に出される見通しだ。

弁護団の一員であり、「結婚の自由をすべての人に」をスローガンに活動する一般社団法人「マリッジ・フォー・オール・ジャパン」代表理事の寺原真希子弁護士は、「裁判所は世論の動向に敏感だ。パートナーシップ制度は日本社会の理解を深める1つのステップになるはず」と話す。

同性婚実現で「幸せになる人が増える」

同性婚に反対する意見として、「国民の理解が追いついていない」「時期尚早」というものがある。しかし、電通ダイバーシティ・ラボによる2019年のインターネット調査では、78.4%が同性婚に賛成している。また同年9月には宇都宮地裁で、同性パートナー間の関係を事実婚状態と認め、法的保護の対象とするとの判決があった。原告の女性は同性の元パートナーの不貞行為によって精神的苦痛を受けたとして、損害賠償請求をしていた。

「同性婚は伝統的な家族観を壊すものとして政治問題と捉えられることがあります。しかし実際には、同性カップルにも異性カップルと同等の権利を保障するという人権問題です。同性婚が実現したからといって、異性が結婚できなくなるわけではありません。幸せになる人が増えるだけです」(寺原さん)

伊藤さんも法制化がされたら、「結婚はすると思います」と話す。そのうえで、恋愛関係のパートナーだけでない形もあると感じ始めている。

伊藤さんと簗瀬さんは25年前、講演活動や当事者のワークショップを開く「すこたんソーシャルサービス」を始めた。同性を好きになる人が自分を受け入れる手助けとなるような活動をしたい、という思いからだった。

お茶会などのイベントに集まる当事者は20代から70代までと幅広い。年代にかかわらず話題になるのが、将来への不安だ。住まいを構える、パートナーと暮らす、介護が必要になる、といった人生の転機をどう乗り越えていくか。それらは、親族へのカミングアウトにつながる恐れもある。親が亡くなるまで、自分のセクシュアリティのことを告げない人もいる。

そんなときに伊藤さんが提案するのは、頼れる友人やコミュニティを作っておくことだ。「契約関係でもいい。何かあったときに様子を見てくれる人や手続きをしてくれる人が必要」とアドバイスしている。

実際にフランスなどではPACS(パックス)と呼ばれる民事連帯契約制度がある。これは同性・異性同士を問わず、法律婚以下だが、事実婚以上の法的権利を得られる仕組みだ。恋愛関係の有無を問わず、友人同士でも利用できる。日本国内のパートナーシップ証明にも同性カップルのみを対象とする自治体と、異性も対象とする場合とがある。

「まずは同性カップルでも、当たり前に結婚の選択ができるようになってほしい。そしてその先には、恋愛関係を超えたいろいろな形でのパートナーシップがあってもいいような気がします」(伊藤さん)

辻 麻梨子 ジャーナリスト

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つじ・まりこ / Mariko Tsuji

1996年生まれ。早稲田大学卒。非営利の報道機関「Tansa」で活動。現在はネット上で性的な画像が取引される被害についてシリーズ「誰が私を拡散したのか」を執筆している。

 

 

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