「武漢日記」が刻む「ちゃんと怒る」行為の重み 「しつこく覚えておく」ことがいちばん重要だ

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武田:4月に緊急事態宣言が出た際、家の周りを散歩することくらいしかできなくなったのですが、毎日のように散歩をしていると、ああ、こんなところにこんな人が住んでたんだとか、あとなぜか、やたらとバドミントンしてる人がたくさんいて、そうか、人は出かけられなくなるとバドミントンするんだな、なんてことを思っていた(笑)。

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周りにこれだけの人間がいて、こういう生活して、あそこのおばあちゃん、歩きにくそうにしてるなとか、あそこに公園があったんだ、でも今は子どもがあんまいないな、みたいな、自分たちの住んでいる周りの情景・光景が見えてきたというのはプラスのことだと思っています。で、そうしたことって『武漢日記』にもふんだんに書かれている。

「絶対に忘れない」ための記録

武田:これって、おそらく全世界共通だったと思うんです。近くにいる人たちが見えた。今、偉い人たちが使う「絆」という言葉、彼らにその言葉を使わせるのではなくて、私たちが日々生きる周りのなかでこそ、そういう言葉を使わないといけないな、と、この本を読みながら自分の生活を振り返りました。

『武漢日記 封鎖下60日の魂の記録』(河出書房新社)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

誰もがそうだと思いますが、「死」というものが目の前に迫ってきた。第1波の流行期には、突然、「死」がやってくるかもしれない、と恐れました。でも、半年くらい経つとみんなもう慣れてしまっている。それこそ、新しい政権の支持率も格段に高い。いつも言ってることなんですが、忘れないでしつこく覚えておく、ということが一番重要だと思います。『武漢日記』は、まさにその「覚えておく」ということと、「覚えながら怒る」ということを実践している、非常に重要かつ尊敬されるべきテキストだと思いました。

飯塚:日本人は中国人よりもっと、「過去のことは水に流す」という傾向が強いかもしれません。何でもすぐに忘れてしまいます。それを方方さんは絶対に忘れない。結果がよかったんだからそれでいいじゃないか、と言われるようなことでも、「いや最初の時点でまちがいがあった、その責任を負うべき人たちを絶対に許してはいけない」とこだわるわけです。そういう姿勢は大事なことで、忘れないために必要な記録を残す。『武漢日記』はまさにそういう記録のための本だと思います。

武田 砂鉄 フリーライター

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たけだ さてつ / Satetsu Takeda

1982年、東京都生まれ。大学卒業後、出版社で主に時事問題・ノンフィクション本の編集に携わり、2014年からフリーに。『cakes』『文學界』『VERY』『暮しの手帖』などで連載を持つ。2015年、『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。他の著書に『芸能人寛容論』『コンプレックス文化論』『日本の気配』などがある。ウェブサイトはhttp://www.t-satetsu.com/

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飯塚 容 中国文学者、翻訳家

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いいづか ゆとり / Yutori Izuka

1954年、北海道生まれ。中央大学文学部教授。訳書に、高行健『霊山』『ある男の聖書』『母』(いずれも集英社)、閻連科『父を想う』、余華『ほんとうの中国の話をしよう』『中国では書けない中国の話』『死者たちの七日間』(いずれも河出書房新社)、鉄凝『大浴女』(中央公論新社)、蘇童『河・岸』、畢飛宇『ブラインド・マッサージ』(いずれも白水社)など。

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