元ベンチャー起業家が「株式会社の謎」に迫る訳

「自分を勘定に入れて」500年の歴史を素描する

しかし、この必然を選び取ることを、氏はそのときに至って突然決断したのではなく、会社経営に携わった長い年月の中で、つねに考えていたのではないかと私は思う。

オフィスが変わる、人が変わる、スポンサーを探す、さまざまな場面で、氏はつねに経営する人として動き、決断していた。

しかるに、株式会社とは、経営と資本の分離を行い、株主の有限責任制により事実上は責任を負わない顔の見えない法人である。経営者は、株主の利益を最優先し、また自らも株主の立場を取る。会社の経営という身体から抜け出たそうした経営者に、必然の選択などできうることではないだろう。

つまり、会社の顔であり続け、会社の身体であり続けた平川氏の振る舞いは、妖怪時代の株式会社とはそぐわなかったのである。

「人間として」どう歩めばよいのかを考える一歩になる

だから、こう言えるだろう。

この書は、優れて経営を知る平川氏であるから、株式会社の本質まで描き切ったものであるが同時に、知り尽くしたからこそ、本質的に経営者であることを望まなかった氏の記した告発の書でもある。

株式会社の人格は、「金だけがすべて」であると本書では論じられている。その点から言っても、氏の世界との対し方とは相入れないものであった。

さらに言えば、氏に懐深く内在しているのは、金では到底測れない、繊細な人間の思いや、市井の営みの残像に見え隠れする、ごく小さなものへの懐慕だと思う。そのまなざしに立つ氏が、株式会社の500年を引き合いに言わんとするのは、ただひたすら金に執着する人間の心と、金では買えないものがたくさんあると気づいた人間の心は、決定的に違うということである。

株式会社を動かす人、株式会社で働く人々、株式会社に就職する学生さんが、もしこの書を手にしたならば、根気強く、氏の株式会社というもののすべての素描を追っていただきたい。

そうすれば、株式会社という仕組みがすでに原理的に成立しないこと、だとすれば、この先われわれは「人間として」どう歩めばよいのかを考える一歩となるだろう。

おそらく、おおよその謎は「人間は自分で意志することとは別のことを実現してしまうものだ」という氏の言葉から始まる。

つまり、戦争から始まり、戦争を期待する病理をはらむ株式会社を、われわれは読後にこの書を一旦置き、もう一度、われわれ自身の手で素描を始めなくてはならないだろう。これは、その問いかけであり、謎解きの文字が刻まれた書なのである。

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