元ベンチャー起業家が「株式会社の謎」に迫る訳

「自分を勘定に入れて」500年の歴史を素描する

その頃、私は会社を辞め、農を勉強しに西へと向かうことになった。訳あって1年で東に帰り、今度はメールマガジンの取材とまとめを担当することになって再び会った平川氏は、喫茶店の店主となっていた。私が1年どうしていたかも細かくは説明せず、氏も触れず、何事もなかったかのように始まった月一の作業は今年で6年目になる。

氏の話を約1時間聞き続けるという習慣は、定められた間合いで行われる説法のようで、少しずつ思考に染み入る。本著で触れている多くを私は語りの言葉として聞き、おそらく身体化していると思う。

「労働の搾取」を身をもって知ろうとしていた

本書を読んでいて気づいたことがある。私はもしや、氏の考えを自身で実験し、確かめるために西へと向かったのではないか。本書に登場するロビンソン・クルーソーのように米を自給し、マルクスの言う「労働の搾取」を、身をもって知ろうとしていたのではないか。時間軸は逆だから、あるはずのないことだが、そんな気がしてならない。

なぜなら、ある時期、私は田んぼに早朝立って作業をしてから、大手菓子メーカーに派遣社員として出勤し、あめ製造ラインで日がな1日あめを切っていたのである。

派遣社員は、朝、工場には直接入らず、小さなプレハブに向かう。派遣社員を束ねる人から、自分の足のサイズに合った白い工場靴(と言っても普通の学校のシューズである)を受け取ってから、巨大なロッカーへと向かう。勤務が終わると靴を返し、使用した帽子や上衣、ズボンはその日のうちに自分で洗濯し、翌日それを持って出勤する。

服は貸与され、家で洗濯し、靴はその日その日に渡される。

どういうことだろうと思っていた。

本書の第Ⅱ部、とくに第8章以降の「彼らが会社を愛した理由」で氏が語るのは、以下の物語である。すなわち、バブル崩壊までの人々と株式会社の蜜月期。それは、会社が人々の「生きる」の真ん中にあり、会社員は会社に犠牲的・贈与的な関わりを行い、それに対して会社が返礼できた時代の「会社のエートス」という物語であった。ここを読んでいて、気づいた。

次ページ白い靴はまったく反対の世界の象徴だった
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