ザックの戦術は「攻撃」でも通用するのか? ”公式暗記型”指導で点を取れるのか

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以下の2つの指示にも、ザックの攻撃哲学のプラス面とマイナス面が混在しているように思った。

「1トップは相手DFの間に入って深さを作り、味方のためのスペースを生み出そう」

「(左サイドで香川真司がやや中に寄ってボールを持ったら)イメージとしては真司がトップ下になって、2トップ(大迫勇也+右から中に入った斉藤学)にパスを配給する。そのとき高徳は左で幅を作ろう」

「深さ」と「幅」はザックが攻撃に関してよく使う単語で、要は誰かが相手を引きつけて使えるスペースを広げようということだ。だが、くどいようだが近年のチームはよく訓練されており、多少の揺さぶりではコンパクトな陣形が崩れなくなっている。

攻撃を教えられる監督は少ない

日本の攻撃陣には、本田圭佑、香川真司、柿谷曜一朗、大久保嘉人ら技術と発想力を併せ持ったタレントがそろっており、岡崎慎司のような理論を超越したハードワーカーもいる。パターンを基にした攻撃よりも、“うまいやつ”の技術と発想を基にした戦術(たとえば前線で自由にポジションチェンジするフランス人のガルシア監督率いるローマ)のほうが、日本のタレントたちにふさわしい気がする。ザックのやり方は“凡庸な攻撃者でもそこそこの突破力を身に付けられますよ”というやり方で、日本人に対してのオーダーメードではない。

攻撃の練習を取り上げて、ザックの手腕を問うのは酷ではある。一般的に守備のほうが状況を想定しやすく、攻撃の練習よりも簡単だと言われており、ヨーロッパでも攻撃を教えられる監督はクライフやグアルディオラなど一握りだ。ザックはクライフがバルセロナを率いているとき、練習を見学してエッセンスを吸収したが、根本的には“守備からチームを作る監督”だ。監督がチームに与える武器を攻撃と守備の2本の槍にたとえるなら、ザックの場合は守備の槍の作成方法が優れている。

これまでの日本が善戦した試合を振り返ると、「いい守備」をできると、それがいい形でボールを奪うことにつながり、一気に前に攻め出てゴールが生まれていた……ように思う。

日本がブラジルW杯で躍進できるかは、いかに「いい守備をできるか」にかかっている――。本番前の最終合宿を見て、あらためてそう感じた。

木崎 伸也 スポーツライター

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きざき しんや / Shinya Kizaki

1975年東京都生まれ。中央大学大学院理工学研究科物理学専攻修士課程修了。2002年夏にオランダに移住し、翌年からドイツを拠点に活動。高原直泰や稲本潤一などの日本人選手を中心に、欧州サッカーを取材した。2009年2月に日本に帰国し、『Number』『週刊東洋経済』『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『フットボールサミット』などに寄稿。おもな著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『クライフ哲学ノススメ 試合の流れを読む14の鉄則』(サッカー小僧新書)など。

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