ところで、安倍晋三政権が誕生した当初、アベノミクスの3本の矢が掲げられ、成長戦略は3番目の矢に位置付けられた。筆者は政府が成長分野を定める産業政策に対してはかなり懐疑的だが、規制緩和や法人税減税などで経済の供給側を高める政策は妥当だと考える。
そして、「3本目の矢」として成長戦略が位置付けられたのも妥当で、安倍政権は経済政策の優先順位を理解しており、第1、第2の矢である金融財政政策を重視した。総需要不足を解消して2%インフレと完全雇用が定着してから、ようやく供給側を高める規制緩和などの効果が顕在化するからである。
安倍政権は、第1の矢である金融緩和徹底に事実上初めて取り組んだ政権であり、それが原動力となり憲政史上最長の政権が実現した。ただ、2014年以降は第2の矢である財政政策が逆噴射的に作用した。そして、第3の矢の効果が顕在化する「2%インフレと完全雇用」という経済状況が定着するには至らなかった、と筆者は総括している。第3の矢が放たれなかったというよりも、そもそも効果を実感できる経済環境に至らなかった、ことが大きな問題だったのではないか。
TPP推進は成長戦略として高く評価できる
「安倍政権では、成長戦略が不十分だった」という評価が一般的だ。だが実際は「どの程度規制緩和などが不十分だったのか」に関して、説得力がある見解を、筆者はほとんど知らない。
実際には、安倍政権は、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)推進に力を入れたが、これは貿易活動の障害を低下させた意味で、規制緩和と同様の成長戦略として高く評価できる。
また、内閣府が主導して構造改革特区が定められたことで、限定的だが規制緩和が実現した。一方で規制緩和に関しては、権益者への配慮から規制されていた獣医学部新設の経緯が、安倍政権時に政治問題化した。長期政権であっても政治主導で規制緩和を進めることは、大きな政治資源を消費するということだろう。
では安倍政権の経験を、菅政権はどう生かすのか。菅首相自身が、官僚組織を動かすことに長けているならば、規制緩和や市場競争を促す方向に官僚組織を動かす実務能力が高いので、安倍政権より期待できるかもしれない。
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