菅義偉政権が誕生してから、はや1カ月以上が経過した。政権発足直後から支持率はやや低下したが、依然高い水準を保っている。
菅政権が最も力を入れている政策の一つは、規制緩和(改革)や行政手続きデジタル化など公的部門の改革である。行政の関与が大きい携帯電話の料金引き下げも同様の政策であり、これらは政治家の手で、さまざまな規制をコントロールしている官僚機構を改革することで国民生活を向上させる政策と位置付けられる。「お役所仕事」への不満が大きいのか、これらの取り組みへの国民の期待は高そうだ。
時代遅れで不要な規制が緩和されれば、民間企業のビジネスの足かせが小さくなるケースは確かにありそうだ。政府や霞が関が取り組むべき成長戦略は「有望産業」などのお題目を作り、特定産業に権益を作ることではない。民間企業の創意工夫を邪魔せず、公正なルールを踏まえた市場競争を通じて企業のダイナミズムを引き出して、経済成長をサポートする。その意味で、規制緩和政策はいつの時代も政府の重要な役割である。
ルール見直しによる規制改革の経済効果はわずか
だが、規制緩和がどの程度必要なのかを、客観的かつ定量的に計測することは困難である。そして規制緩和によってどの程度国内総生産(GDP)成長率を高めて、国民経済が豊かになるのかを客観的に示すことも難しい。実際に、個々のルール見直しである規制改革の経済効果はわずかである。
そもそも、規制緩和は、短期的な日本経済の成長率や国民の豊かさには影響しない政策手段で、長期的な経済成長率を規定する供給側に作用する政策である。
通常、1人当たり所得が低い多くの新興国は、政治権力によって企業活動や私的権利が制限されており、規制緩和などの「改革」の効果はかなり大きくなる。一方、すでに市場原理が浸透して、政府による市場への介入が限定的な多くの国は、1人当たり所得が高まり先進国となっている。つまり日本を含めた多くの先進国は、そもそも規制緩和などの経済的な効果は限られる。そして米欧諸国において、規制緩和などの政策が重要な経済政策として掲げられる例は少ない。
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