ただ、規制改革や官庁のデジタル化を進めて、どの程度経済成長率が高まりわれわれの生活が豊かになるのか。経済的な効果が全くないわけではないが、現在、菅政権が掲げる具体策が実現しても、経済成長率に及ぼす効果は極めて小さいと筆者は評価している。「官庁のデジタル化」や「はんこの廃止」は、時代遅れの官僚組織をようやく他の先進国並みに改善するだけの政策ではないか。
むしろ、菅政権が、規制緩和などを改革の旗印にするのは、分かり易い成功例を作り国民に対してアピールするという、政治的な意味合いの方が大きいのかもしれない。かつて小泉純一郎政権は道路公団や郵便局などを抵抗勢力に見立てたが、こうした意味で規制緩和を進める政治的な動機や効果があるのだろう。
金融財政政策の徹底こそ最重要
FRB(米連邦準備制度理事会)の前議長であるジャネット・イエレン氏は金融財政緩和政策によって経済が過熱気味の状況になる「高圧経済」に関して、2016年に講演した。これは、金融財政政策の有効性に関する重要な論点で、金融緩和によって労働市場が逼迫する経済状況において、効率的な資源配分や企業の生産性向上を後押しするなど、経済の供給側にも好影響を及ぼす経路がある。
筆者は総需要の変動が供給側に及ぼす影響が大きいと考えている。そして、日本のように長期デフレつまり総需要不足が続いた国は、「超低圧経済」となり、それが民間部門の創意工夫を妨げて経済全体の生産性低下を招いた側面がかなり大きいと考える。この供給側への悪影響は、日本のいわゆる岩盤規制の悪影響よりも大きかったとみている。
筆者のこの見方が正しければ、現在再びデフレリスクに直面している日本では、金融財政政策を徹底することが最重要政策になる。これが徹底されてこそ実現する「完全雇用」と「2%インフレ」が定着して、企業の生産性が高まり易くなり、規制緩和による供給側を高める効果が顕在化するだろう。
コロナ禍によって日本経済は厳しい景気後退に陥り失業率が上昇、肝心のインフレ率が再びマイナスに至っている。この状況で何が最重要政策なのか。規制緩和政策などの効果を国民が豊かとして感じることができる経済環境とは言い難いのだから、金融財政政策を徹底かつ強化する余地は大きい。
これを実現させてこそ、菅政権が重視している規制緩和の効果や恩恵を我々国民が実感できるだろう。規制緩和を旗印とする菅政権が、現在の経済環境において金融財政政策を徹底することが優先順位が高い政策であり、そして最終的に旗印である規制緩和によって国民生活を豊かにするために必要なステップだと考えている。
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