「来客1日5組・売上1万円台」コロナ閉店のリアル 膨らむ赤字、出勤したくない従業員、給与補償…

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しかし、私自身は体1つしかないため、このまま進めたとしても心身が耐えきれず、すべてが中途半端になってしまうことも考えられました。過去、自分自身が体調不良を経験しているため、自分の許容量をオーバーすることは直感でわかっていました。

時間とお金だけを費やしてしまい、想定していたよりも早い段階で会社の寿命を迎えることも可能性としてありました。そうであれば、融資で資金調達をすることは必須です。

しかし、本来の融資は返済できる見込みがあるから借りるものであり、半年後、1年後のウィズコロナ、アフターコロナに則したビジネスモデルの見立てがないようでは、借りたお金の返済をしていくことは、現実的ではありません。実態は、赤字を補塡するための借金で、返済が始まれば借金を返すために借金をする可能性すら考えられました。2019年に投資をしたばかりという背景もあって、融資には非常に慎重になっていたのです。

計り知れない経営リスク

コロナ禍では、業務負荷も増えます。1日に何度も共用部分を消毒する必要がありますし、感染対策に敏感に対応しなければ、お客様からクレームを受けてしまう可能性もあります。このような現場の負荷は、従業員の疲弊につながります。また、どんなに感染予防に努めても、感染者の来店をゼロにすることは実質不可能で、万が一コロナが発生した場合の経営リスクは計り知れません。席を間引くことによる収益性の悪化も懸念事項です。

ワクチンが開発されるなど根本的な解決策が出てくるまで、席を間引いた営業を続けざるをえませんし、この距離感がスタンダードになれば、収益設計そのものを変える必要があります。

テイクアウトによる売り上げの確保も考えられましたが、そもそも店内飲食をメインとした店舗設計であり、テイクアウト店舗と比較すると大きく利便性は落ちます。また、飲食店は食事とその空間(内装、接客サービス、空気感など)に価値があり、とくに私が運営していたカフェは「子連れに優しい」をコンセプトにしていたので、空間の価値のほうが割合を大きく占めていました。必然的に、テイクアウトで売り上げを確保することは厳しいと判断しました。

私自身がお客様の立場で考えれば、テイクアウト専門店やコンビニ弁当のほうが利便性は高く、こちらを選ぶ頻度が高くなることは容易に想像できました。

通販に活路を見いだすことも考えました。店舗が休業に入るタイミングで、大量に在庫がある「オリジナルパンケーキミックス」を販売するために、ネット通販を行いました。外出自粛により、自宅で料理を作る人が増えた背景もあって、スーパーではホットケーキミックスや小麦粉が売り切れていました。そのような状況もあり、ツイッター上で販売を告知したところ、5時間で約800件のオーダーをいただき、即完売。1000㎏の在庫は、瞬く間になくなりました。

『全店舗閉店して会社を清算することにしました。』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

これだけの注文をもらうと、「通販で乗り切れるんじゃないか」という手応えはありました。しかし、冷静に考えれば、たまたま需要のある時期に、たまたま世間的に飲食店を応援したい雰囲気があり、たまたまパンケーキミックスを在庫処分価格で販売したことがガッチリはまっただけで、パンケーキミックスの実力だけで売れたわけではないことははっきりしています。

本来であれば、販売に手間をかけ、広告も出稿して、やっと売れる商品。販売に必要な人手やコストを考えれば、飲食店の損失を補塡できるほどの収益を求められるかというと、現実的ではありません。このように、新規事業やパンケーキミックスをネット販売するような+αの事業を立ち上げるとしても、飲食店を運営していること自体が重荷になってしまっている状況では、飲食店事業から撤退することが正しいと考える結論に至りました。

福井 寿和 株式会社グラバー代表取締役

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ふくい としかず / Toshikazu Fukui

1987年生まれ、青森県出身。新潟大学経済学部卒業後、日本NCR株式会社に入社。その後、株式会社マネジメントソリューションズでPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)を経験後、2014年に地元青森で合同会社イロモアを創業。コワーキングスペースの経営からスタートし、2015年に「CAFE 202 青森店」をオープン。2017年に株式会社イロモアの代表取締役に就任。
事業が軌道に乗り始めた矢先に新型コロナウイルスが襲来。「全店舗閉店、事業清算」という苦渋の決断を下す。その背景を綴ったブログは140万PV超えを記録した。
2020年8月、株式会社グラバーを設立。「廃業支援」など倒産の経験を生かした事業をスタート。

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