「母性がない罪悪感」に悩み続けた女43歳の境地

娘と生き別れ13年、ふたをした感情が溢れた時

忘れたい、忘れられたと思っていた娘が、急に恋しくなったのは最近だ。乳がんの疑いで手術をしたときに、初めて死を身近に感じた。40歳を超え、人生80年だとしたら折り返し地点は過ぎた。このまま娘に会えずに一生を終わるのか。そう思ったら、急に娘に会いたくなった。母親との葛藤のなかでふたをしていた感情が、「家族」との穏やかな生活を通してあふれ始めた。

母性は、生まれながらに備わっているものではなく、与えられて育てていくものだと思う。自分が与えられたことのない母性を表現することは難しい。一方で母性は、必ずしも自分の親からだけではなく、自分を受け入れてくれる他人からも与えてもらえる。「ウマが合う」義母の存在が、彼女の母性を少しずつ育ててくれたのかもしれない。

「生きているよ」と伝えたい、切なる願い

「少ない」と思っていた母性が、いま彼女の魂の奥から静かに湧き出ている。勇気を振り絞り、冴子さんは元夫に「お元気ですか」とメールを出した。「元気だよ。こちらは相変わらずだよ」と返信があった。しかし、娘の様子を聞くと「娘には関わらないでくれ」と言い、それきりメールは途絶えた。

「あちらの家族は、娘に『母親は死んだ』と伝えているのでしょうか。でも、娘ももう16歳。お墓もないし位牌もないので、さすがにおかしいと思うでしょう。生きているよ、元気だよ、と伝えたいんです」

13年経ち、いまさら娘を取り戻したいわけではない。ただ、会って話したいだけだ。少しでも、母性のかけらを手渡したい。

「娘自身は、私のことなんてどうでもいいんだと思うんです。母親が生きていると知っても、別に会いたくもないでしょう」――と彼女は言うが、いやいや。子どもが母性を求める気持ちの根深さは、冴子さん自身がよく知っているはずだ。

いま冴子さんは、娘との再会に向けてさまざまな方法を探っている。手紙を書こうか、それとも……。母娘の幸せな未来があることを祈りたい。

ライフの人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 新型コロナ、長期戦の混沌
  • 自衛隊員も学ぶ!メンタルチューニング
  • ポストコロナのメガ地経学ーパワー・バランス/世界秩序/文明
  • 森口将之の自動車デザイン考
トレンドライブラリーAD
人気の動画
東芝、会社「3分割」に残る懸念
東芝、会社「3分割」に残る懸念
ANAとJAL、国内線で競り合う復活レースの熾烈
ANAとJAL、国内線で競り合う復活レースの熾烈
富裕層、世代でまったく異なる「お金の使い方」
富裕層、世代でまったく異なる「お金の使い方」
サイゼリヤが「深夜営業廃止」を決断した裏側
サイゼリヤが「深夜営業廃止」を決断した裏側
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
メタバース革命が始まる<br>全解明 暗号資産&NFT

不正流出事件から4年。復活不可能に見えたビットコイン相場は米国主導で活況を取り戻しました。暗号資産を使ったNFTの購入、そしてNFT取引が広がるメタバースにもビジネスの機会が広がっています。日本は暗号資産とどう向き合うのでしょうか。

東洋経済education×ICT