田舎の山に「草食系クマ」が増加した意外な背景

野生動物の「グルメ化」が止まらない

ところで、野生動物にとって重要なのは、冬の間に得られるエサの量である。春夏秋は、自然界に食べられる植物が豊富にあるが、冬は少なくなる。しかも寒さに耐え、妊娠や出産(シカは秋に妊娠し春に出産、クマは冬眠中に出産)する冬をどう乗り越えるか。冬に得られるエサの量で、野生動物の生存は左右されがちである。

私は、冬の里山にどの程度エサとなるものがあるか調べて歩いたことがある。結果は、驚くほど豊富だった。まず収穫後の田畑がエサの宝庫だ。農業廃棄物が山ほど捨てられていたのである。農作物は全部収穫されると思いがちだが、間引きしたものや虫食いの作物は収穫せずに、そのまま畑に捨て置かれる。

ハクサイやキャベツのような葉もの野菜は、収穫する際に外側の葉を剥く。ダイコンなどの根菜も、収穫せずに放置されている分が多い。田畑には農業廃棄物が山となっていたのだ。さらにカキやクリ、ミカン、ユズ、ダイダイなどの果樹も枝に実を付けたまま放置されていた。

冬の里山に残された放棄作物の白菜(筆者撮影)

カシやコナラなどのドングリが樹下に大量に溜まっているところも見た。それらの総量は膨大だ。いまや作物は質によって選別し、弾かれた作物が農地に残される。だが、それらは野生動物の絶好のエサとなる。放棄作物の残る田畑は、野生動物にとっては“食堂”同然だ。

近年増加する「草食系クマ」

こうしたエサにありついた動物は、文字通り味をしめて里に通い続ける。奥山と里山を行き来している可能性もある。里山にエサが増えたら、里近くに居つくかもしれない。

そのせいか、最近は"草食系クマ"が増えているという。恋愛に奥手なのではなく、ベジタリアンという意味だ。動物性より植物質のものを好んで食べているというのだ。明治時代のヒグマの骨に含まれる窒素同位体元素の比率から、その個体が食べたものを調べたところ、エゾシカやサケ、昆虫類など動物性タンパク質が6割以上だった。ところが最近のヒグマでは5%程度に落ちていた。増えたのは、フキやヤマブドウなど草本・果実類なのだという。

イノシシの胃袋を調べても最近は草ばかりらしい。雑食動物が草食に偏ることで、十分なエサの確保に成功し、繁殖もしやすくなったと考えられないだろうか。

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