田舎の山に「草食系クマ」が増加した意外な背景 野生動物の「グルメ化」が止まらない

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その一方で、肉食系クマにも有り難いエサが提供されている。イノシシやシカの駆除が進められているが、仕留めた個体をジビエ用に持ち出すケースは一割に満たず、たいてい現地に埋めるか捨てられる。その死骸がクマのエサになる事例が報告されている。クマが生きたシカやイノシシを襲うことはそんなに多くないが、皮肉なことに人が駆除したおかげでクマのエサになっているわけだ。

栃木県でツキノワグマの体毛から炭素と窒素の同位体比率を調べてエサの種類を推定したところ、5歳以上のクマはシカをエサにした割合が高く、とくにオスにその傾向が強かった。季節は夏が多かったらしい。この時期は、有害駆除が多く行われている。

野生動物の「グルメ化」が止まらない

奥山にも里にもエサがたっぷりある。一方で人は少なくなり、人里に侵入しても追い払おうとしない。そして人間がシカなどの肉を提供してくれる……。これでは野生動物がエサに困る可能性は低い。

ちなみに動物にも個性はあって、人里の農作物などの味を覚えて繰り返し農地を狙う動物もいる一方で、人に対する警戒心が強く、滅多に人里に近づかない個体もいる。有害駆除の対象としては、里に出没する個体を狙うべきなのだが、ハンターは両者の区別がつかずに獲りやすい個体を仕留めがちだ。それでは駆除の効果も半減してしまうだろう。

『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』(イースト・プレス)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

また今年は、ミズナラやコナラ、クリ、ブナなどの木の実類が凶作で、その影響で里に下りてくる動物、とくにクマが増える恐れが指摘されている。もちろん、そうした可能性もあるだろう。普段は里を警戒して姿を現さない個体も、腹が空けば背に腹は変えられず農作物を狙うかもしれない。そして一度口にした農作物の美味しさに目覚めたら警戒は緩み……そうならないためにも、早期に対策を練る必要がある。

まず必要なのは、野生動物を人里に近づけない(誘引するエサを残さない)「予防」措置である。それを怠りつつ、駆除だけに力を入れても効果は出にくいだろう。

田中 淳夫 森林ジャーナリスト

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たなか あつお / Atsuo Tanaka

1959年大阪生まれ。奈良県在住。静岡大学農学部林学科卒。探検部の活動を通して野生動物に興味を抱く。同大学を卒業後、出版社、新聞社等を経てフリーの森林ジャーナリストになり、森と人の関係をテーマに執筆活動を続けている。著作は『イノシシと人間』(共著・古今書院)、『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『鹿と日本人―野生との共生1000年の知恵』『樹木葬という選択』(築地書館)、『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(新泉社)ほか多数。

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