NY日本人ピアニスト暴行、「逮捕者いない」現状

海野氏が語る暴行の記憶とアジア人への差別

ニューヨークで集団暴行に遭い、演奏ができない状態にあるジャズピアニストの海野氏 (写真:Sayaka Unno via The New York Times)

海野雅威(うんのただたか)はジャズミュージシャンとして成功するために東京からニューヨークにやってきて、そして成功した。いくつものツアーバンドでライブを行い、自らもトリオを率いた。海野のピアノは上品でひけらかすようなところがなかった。いつも準備万端で時間を守る人物だった。

ジャズミュージシャンとしての道のりは簡単なものではなかったが、9月27日の午後7時20分ごろ、その道のりは極めて険しいものになった。

警察はいまだに誰も逮捕していない

40歳の海野は最近、父になったばかり。仕事でビデオの撮影を終えて西135番通りにある地下鉄の駅を出ようと改札に向かうと、8人ほどの若者の集団が前方に立ちはだかった。そのまま通りすぎようとしたところ、集団の1人に後ろから体を押された。連れの女性が押された、と別の1人が言うと、近くにいた若い男性がこう続けた。「俺の女は妊娠してんだぞ」。

その瞬間に暴行が始まった。地下鉄の構内で始まった暴力行為は通りに出てからも続いた。海野は通りの人々に叫んで助けを求めたが、誰も助けてはくれなかった。

「自分はこうやって死んでいくんだと思った」。事件から2週間後、海野は暴行の様子を文章にして振り返った。話すには、あまりにもつらい出来事だからだ。集団のうち何人が自分を殴ったのかはわからない。

彼らは海野の右の鎖骨を骨折させ、腕を負傷させ、全身に打撲を負わせた。海野は骨折の治療で手術を受けたが、再びピアノを演奏できるようになるかどうかはわからない。右腕は今のところまったく使える状態にはなく、いろいろなことを左手でこなせるように学んでいるところだと言う。

暴行の様子は地下鉄の防犯カメラに収められていると海野は話すが、警察はいまだに誰も逮捕していない。海野の記憶によれば、集団のうち少なくとも1人は「アジア人」や「中国人」という言葉を使いながら、海野を口汚くののしっていた。

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