NY日本人ピアニスト暴行、「逮捕者いない」現状 海野氏が語る暴行の記憶とアジア人への差別

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報道の多くは新型コロナの感染が広まって以降、アジア系アメリカ人を狙った犯罪が増えたことに言及している。新型コロナのパンデミックをめぐっては、大統領のトランプが中国に責任をかぶせる発言を繰り返している。

海野のもとには、日系アメリカ人から大量のメッセージが寄せられた。自らが直面した人種差別の経験をつづったものだ。海野は、その数に圧倒された。メッセージを読み進めるうちに、こう感じたという。「自分の痛みは彼らの痛みと同じだ」。

しかし、偶発的な暴力事件の動機を断定するのは簡単ではない。

警察は、人種差別が海野の集団暴行につながったことを示す証拠はないとして、今回の事件をヘイトクライムに分類しなかった。暴行を受けているときの記憶は「ぼやけている」が、人種差別的な発言を聞いたのは確かだ、と海野は話す。トランプが今回の暴行事件を誘発したことを裏付ける証拠はない。

ジェニングスは、今回の事件をヘイトクライムと決めつけるのは行きすぎだとクギを刺す。ジェニングスが言うには、海野を襲ったのはストレスや怒りをため込んだ若者の集団だ。「一部の報道はちょっと(人種差別的な側面を)あおりすぎているように思う」。

怖くてアパートから出ることができない

海野は今も「かなり強い鎮静剤」が欠かせないという。ピアノを演奏したり息子を抱いたりすることはできず、腕の機能がどこまで戻るのかはわからない。体が回復するかどうかが不安なのは当然だが、精神的なトラウマから立ち直るのはもっとたいへんなのではないか、と海野は懸念する。暴行されて以来、治療で通院する以外は、怖くてアパートから外出することができなくなった。殴られたとき1発目でメガネを飛ばされたため、暴行犯に出くわしたとしても顔を見分けることはできないだろうと言う。

今回の集団暴行に遭うまでニューヨークで人種差別を経験したことは一度もなく、ショックもそれだけ大きかった。ニューヨークにやって来たのは、自分と違う人たちと交流するためだったが、今ではその違いが海野を苦しめている。

かつては太陽のように自らを引きつけたニューヨークだが、今はそこから離れることを考えていると言う。たぶん日本に戻ることになるだろう。「こういうことが起こった以上、妻も私もここで子どもを育てるのは不安だ」。

ほかのアジア系アメリカ人からも自らの人種差別体験を語るメッセージを受け取った海野は、こう痛感させられたという。「アジア系にはこうした問題を取りあげるブラック・ライブズ・マター(BLM、黒人の命を粗末にするな)のような大きな運動がない」。

変化が必要だと海野は話す。「アジア系のコミュニティーの団結力はそれほど強くない。アジア系も立ち上がって、行動を起こさなくては」。 (敬称略)

(執筆:John Leland記者)
(C)2020 The New York Times News Services

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