NY日本人ピアニスト暴行、「逮捕者いない」現状 海野氏が語る暴行の記憶とアジア人への差別

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海野が日本にいるころから友人だった、ドラマーでジャズ教育者のジェローム・ジェニングスによれば、海野はジャズの人種的原動力、つまり自分はアフリカ系アメリカ人が発展させてきた音楽ジャンルで仕事をしているのだということをいつも強烈に意識していた。

「ジャズの文化をもっと知ろうと、いつも質問を投げかけていたね」とジェニングス。「ハーレムで暮らすのもその一環。偉大なミュージシャンが暮らした場所がハーレムだということを彼は理解していた。その重要性をわかっていたんだ」。

2020年までには、東京を去ってニューヨークへと向かった海野が思い描いていたことの多くが現実になっていた。仲間、知名度、そして音楽。6月には夫婦に初めての子どもが生まれた。男の子だった。

「彼はすごく幸せだった」とウィルナーは言う。「もちろん、働き続けて、収入を得続けなければならないプレッシャーは大きくなったと思うけど、彼はとてもうきうきしていた」。

日本の報道がきっかけで注目された

暴行されているときに、ある女性が救急車を呼んでくれたおかげで助かった、と海野は話す。海野はその救急車でハーレム・ホスピタル・センターに運ばれた。暴行されたことも衝撃だったが、通りがかった人たちが誰も助けてくれなかったこともショックだった。こんなことは初めてだ。腕を動かすことはできず、再手術が必要になった。自宅では、妻が「2人の赤ん坊の面倒を見なければならなくなった」ような感じがするという。

10月3日、海野の治療費などに充てようと、ジェニングスはクラウドファンディングサイト「GoFundMe(ゴーファンドミー)」で支援を呼びかけた。3月に新型コロナウイルスのパンデミックが始まってから、海野もほかのミュージシャンと同じく、演奏活動で収入を得ることはできなくなっていた。さらに暴行で重症を負ったことから復帰の見通しはまったく立たなくなり、しかも自宅には生まれて間もない赤ん坊がいる。請求書は積み上がる一方だった。

支援金を募るゴーファンドミーのページでは暴行犯が人種差別的な言葉を発していた点には触れられていなかったが、2万5000ドルという控え目な目標は初日で突破。募金はその後も続き、ソーシャルメディアでは海野の全快を願う投稿が広がった。

10月6日、自分を暴行した集団の1人が「中国人」という言葉を使うのを聞いた、という海野の発言を日本の朝日新聞が紹介すると、アジアとアメリカのほかのメディアもこの話題に飛びつき、事件の人種差別的な側面が強調されるようになった。

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