そして経常収支の赤字は、資本収支の黒字(アメリカへの資本流入)とほぼ見合っていた。つまりアメリカでは、家計が借り入れで支出を増やしたのだが、国全体としても借り入れで支出を増やしたわけだ。このことは、しばしば「アメリカはベンダーファイナンス(販売者が金融の面倒を見ること)に頼った」と言われる。
日本は貯蓄以下しか投資をしなかった
借り入れで支出が支えられているので、借り入れができなくなると、支出が急減する。このため、アメリカ国内の金融的な変化がアメリカ国内で完結せず、世界的な広がりを持ったのである。今回の経済危機の本質は、この点にあった。
他方、日本でも家計貯蓄率は下がった。ただし、それはアメリカのような要因によるのでなく、人口の高齢化による。住宅投資も減ったのだが、家計の貯蓄投資差額は縮小した。他方で、企業の貯蓄が増えた。国全体としては、対外経常黒字が、特に実質値で見て拡大した。02年以降、顕著にそうなった。中国も経常黒字を増大させた。
つまり世界的な貯蓄投資のバランスの観点から見れば、次のようになったことになる。
・アメリカが貯蓄以上に投資して、経常収支の赤字を増やした。
・日本と中国が貯蓄以下にしか投資せず、経常収支の黒字を増やした。
これに加え、為替レートが変化して、上記の実物面の変動をさらに拡大することになった。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。
(写真:今井康一)
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