ドラフト会議「今年の球児」は大成が見込める訳 試合で酷使されず肩肘を温存したままプロへ

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確かに甲子園で活躍すれば、その選手の知名度は飛躍的に上がり、箔がつく。人気選手が入団することは、プロ球団にとってもメリットがある。

また、選手にとっても、甲子園で活躍すれば、プロや大学関係者に大いにアピールすることができる。少し前までは「甲子園で活躍する」=「プロ野球への道が拓ける」ことを意味していたのだ。

しかし今のプロ野球は、一人二人の甲子園のスター選手に頼らずとも多くの観客を自前で動員できる。また、プレーを数値化して評価するトラッキングシステムなどを使えば、選手のポテンシャルはかなりの精度で解析できる。甲子園で大車輪で活躍しなくても、高校球児の実力はかなりのところまで十分に把握できるのだ。

昨年、高校生ながら160㎞/h超の剛速球を投げて全国に注目された大船渡の佐々木朗希は、国保陽平監督の判断で、夏の地方大会の決勝での登板を回避した。この年の4月にスポーツ専門の整形外科医から「佐々木君はまだ骨端線が閉じていない。骨が柔らかいので無理をすれば致命的な故障をする」というアドバイスを受けていたからだ。

大船渡はこの判断により甲子園に出場できなかったために、地元や高校野球ファンからは批判の声が上がったが、プロ野球のスカウト陣からは「逸材が無傷のままドラフトにかかる」と歓迎する声が上がった。

肩肘を温存したままドラフト会議

今季は春夏の甲子園、地方大会がなかったうえに、練習や対外試合が自粛になったので、ほとんどの投手が投げすぎることなくドラフトを迎えている。

昨年、日本高野連は「1週間最大5000球」という球数制限ルールを導入した。このルール自体は「実質的な投げ放題だ」との批判もあったが、コロナ禍以降、この制限まで投げた投手は皆無だったはずだ。

8月に行われた甲子園での交流戦では、智辯学園の西村王雅が150球、大分商の川瀬堅斗と中京大中京の高橋宏斗が149球を投げたが、1試合だけであり肩肘への影響は限定的だった。

NPBは、8月29~30日と9月5~6日に「プロ志望高校生合同練習会」を開催。プロ志望の高校球児41名が甲子園球場と東京ドームでスカウトなどプロ野球関係者にパフォーマンスを披露した。

プロ側は「一カ所で有望選手をまとめて見ることができるので、ありがたい。ほかの選手との比較もできたので、参考になった」と好評だった。「甲子園がなくてもいい」とまでは言わないが、選手の実力を見極めるためだけならそこまで大層なイベントは必要ないのだ。

プロ野球側の選手獲得の思惑と、高校野球指導者の甲子園にかける思いは、微妙に食い違ってきつつあるように思う。本来ならば、最も酷使される高3の投手が、肩肘を温存したままドラフトに臨んでいる。これは55年の歴史があるドラフトでも初めてのことだ。今年ドラフトで入団した高校球児たちの活躍が期待される。

広尾 晃 ライター

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ひろお こう / Kou Hiroo

1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイースト・プレス)、『もし、あの野球選手がこうなっていたら~データで読み解くプロ野球「たられば」ワールド~』(オークラ出版)など。

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