新宿で異彩を放つ「タブーなき言論空間」の実像 ロフトプラスワンが存在感を増し続ける理由

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味わいのある空間に魅了される人も多い(撮影:尾形文繁)

1997年、ロフトプラスワンは現在の歌舞伎町に移転。客席は約3倍になり、アクセスも便利になった。一方で、大きな懸念もあったという。それはやはり、街のアウトローなイメージだ。当時の歌舞伎町には、ヤクザや今でいう半グレがたくさんいた。しかも移転先の建物は元クラブで、薬物使用が蔓延し、警察の手入れが続き閉店した、という噂があるいわくつき。そこへ拠点を移すことで、客足が減ったり、トラブルに巻き込まれたりしないか、という心配である。

「移転はロフトプラスワンにとっての一大決心で、ターニングポイントでしたね」と加藤さん。だがふたを開けると、富久町のころより客数は増え、認知度も目に見えて高まった。限られた人しか知らない空間から、一般の人々にも知られる空間へ転換するきっかけになったのだ。

「歌舞伎町とお店のコンセプトが合っていたと思うんです。歌舞伎町はもともと懐が広くて、誰でも受け入れる風土がある。うちも同じで、誰でも歓迎、何でもあり、お客さんと出演者の分け隔てなし、という方針なので、この場所でやりやすかったのかもしれません」

タブーなきイベントを開催し続ける理由

時代的に、表現の規制もさほど厳しくなかったため、次々とスキャンダラスなイベントを開催していった。出演者の一例を挙げると、ドキュメンタリー映画『ゆきゆきて、神軍』の主人公の故・奥崎謙三氏、ロス疑惑の故・三浦和義氏、連合赤軍の元活動家の植垣康博氏など、まさにタブーなきラインナップだ。

とくに印象深いイベントの1つとして、加藤さんは2008年に開催した、ドキュメンタリー映画『靖国 YASUKUNI』の上映会を挙げる。同作に対し、週刊誌が「この反日映画は助成金で作られた」と報道したことから、保守系の議員が助成金の正当性に疑問を呈すなど騒動に。さらに上映予定の映画館には、右翼を名乗る人物から脅迫電話があり、街宣車も乗りつける事態となって、上映中止が相次いだ。そんななかで、ロフトプラスワンは上映会を決行したのだった。

当日の客は3分の1がマスコミ、3分の2が右翼。上映後は激しい討論が起き、何とか無事に終わったものの、これまでで最も緊張感があるイベントだったと加藤さんは振り返る。このように危険やトラブルが伴っても、なぜロフトは攻めたイベントを開催し続けるのか? そこには、ロフトイズムとでもいうべき思いがある。

「表現というものを、見る前から封じようとすることへのアンチテーゼというか。ネットや週刊誌など、何らかのフィルターを通した情報は、時に中立性が欠けていることもあります。それだけを鵜呑みにして、いいとか悪いとか決めること自体がおかしいですよね。批判するなら、作品をきちんと見て、違う立場や考えの人とも議論してからにしよう、というシンプルなメッセージだったんです。そうしないと、表現はどんどん自己規制し、委縮していってしまいますから」

ロフトプラスワンでは、原発関連や、あいちトリエンナーレ2019の「表現の不自由展・その後」などもイベント化し、登壇者も客も全員で議論を行っている。よく「もめ事になるので、飲み屋で政治・野球・宗教の話はタブー」などと言われるが、その真逆だ。

ヒートアップすることも少なくないが、加藤さんのメッセージが示すような、表現そのものや他者の意見に真剣に向き合う姿勢があるからこそ、秩序が守られているのだろう。ルールとしても、出演者は一方的にしゃべるだけでなく、必ず質疑応答の時間を設ける、という取り決めがあるため、フェアな言論空間として成立しているのだ。

現代社会では、誰もが息を吐くように、ネットで情報発信できる。スマホやPCを開くと、膨大な情報が飛び込んでくる。そんな時代だからこそ、リアルな空間でひざを突き合わせ、直接話し合うことの意義を加藤さんは強調する。

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