ニトリ、TOB中の「島忠買収」に待ったの背景事情 DCM提案に対抗、首都圏の店舗網拡大が狙いか

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会見でDCMの石黒靖規社長は「完全子会社化を前提としたTOBなら(1株4200円は市場から)評価してもらえると認識している」と語ったが、このTOB価格では買収額は最大1630億円となる。それ対し、島忠は純資産が1815億円あるため、負ののれんが約200億円発生する計算だ。

7月にアークランドサカモトに買収されたLIXILビバの場合、買収額は1100億円で、のれんは約420億円だった。こうした事情に加え、前述の帳簿価額で954億円にのぼる土地の含み益なども考慮すれば、純資産と比べて十分に高い買収価格をつけたLIXILビバのケースと比べ、島忠の買収価格は安すぎるというわけだ。

そして10月に公表されたDCMの島忠買収価格が、「自分たちなら、より高値で島忠を買える」とニトリの背中を後押しした側面はあるだろう。

旧村上ファンド系も「割安」と指摘

島忠の業績は数年前から店舗販売の不振で頭打ちだったが、強固な財務基盤を源泉とした積極的な株主還元が多くの投資家達を引きつけてきた。特に外国人投資家や機関投資家など「モノ言う株主」が多く、村上世彰氏が実質支配する投資会社・シティインデックスイレブンスもその1社だ。

同社は10月21日、島忠株を8.38%保有していることを明らかにし、島忠に対して「公開買い付け価格が会社の本来価値と比べて割安ではないか」「なぜ買い手を広く募らなかったのか」などとただす書簡を10月14日付で送っていたことも公表した。

東洋経済の取材に応じた村上氏は書簡を送った意図について、「会社を売却すると決めた以上、(島忠の)取締役会はベストプライスを追求する責務がある」と指摘。ニトリが名乗り出る可能性があることに関しては、「同業での買収合戦が起きるのは良いこと。大きくて強い会社が残ることが日本経済にとっても望ましい」と述べた。

一連の報道を受け、島忠の株価は22日終値で4810円まで上昇しており、DCMはTOB価格(4200円)を引き上げなければ買収成立は難しいだろう。とはいえニトリも法外な買収価格では、物流拠点の再整備など従来計画していた投資を見直す必要性が出てしまうため、価格設定の見極めが難しいところだ。

「お値段以上」の買い物ができるのはDCMか、それともニトリか。島忠の行方に市場関係者の大きな注目が集まっている。

真城 愛弓 東洋経済 記者

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まき あゆみ / Ayumi Maki

東京都出身。通信社を経て2016年東洋経済新報社入社。建設、不動産、アパレル・専門店などの業界取材を経験。2021年4月よりニュース記事などの編集を担当。

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