ニトリ、TOB中の「島忠買収」に待ったの背景事情 DCM提案に対抗、首都圏の店舗網拡大が狙いか
島忠買収の果実として数値目標の達成以上に魅力的なのが、首都圏の店舗網を一気に手中に収められることだ。島忠の店舗の9割超は東京・神奈川・埼玉・千葉に集中し、自社物件も多数保有する。
有価証券報告書によると、島忠は2019年8月末時点で埼玉・東京・神奈川などに、総資産の4割に相当する954億円の土地を有する。別の家具小売店の中堅社員は「島忠は都市部の利便性が高い、希少な立地に駐車場を併設した大型店を複数構えている。その店の屋号がニトリに変わっても違和感はあまりない」と語る。
地方のロードサイドに大量出店してきたニトリだが、この数年は家具・生活雑貨の購買需要が大きいニューファミリー層や若者が多く住む首都圏での出店を加速している。ただ、地方と比べ、都市部での出店は高額な賃料や物件取得費が店舗の収益性を高める上でネックとなっていた。島忠の保有する首都圏の店舗が手に入れば、出店候補地の確保に向けて家主や地主と交渉する手間や時間も省ける。
「割安な買収」がニトリを触発
島忠に目を付けた裏には、ニトリの経営陣がホームセンターのビジネスモデルを熟知している事情もあるだろう。似鳥会長は2016年からホームセンター3位のコーナン商事の社外取締役を務めている。さらに長年、ニトリの店舗開発を主導してきた須藤文弘副社長はもともと島忠出身で、島忠関西の代表取締役を務めた経歴を持つ。ニトリにとって家具事業とのシナジーを模索するうえでもホームセンターは未知の業態ではまったくないのだ。
ニトリは不況時こそ投資を拡大させる経営でも有名だ。同社の2020年8月末時点の自己資本比率は81.6%、現預金は2330億円と5年前比で6倍超に積み上がり、投資余力は十分だ。
似鳥会長は2019年7月の決算会見で「淘汰時代が始まればチャンス。数年前から投資の準備はしてきた」と発言。さらに10月2日に開かれた決算会見でも「コロナを契機に業界でも良いところと悪いところが分かれ、寡占化の時代に入ってきた」と強調していた。コロナ禍の今こそ、家具業界にとどまらず小売市場全体でのシェアを一段と高める「攻め時」とみているわけだ。
ただ、気になるのは島忠買収へ本格的な検討に入ったタイミングだ。ニトリはDCMがすでにTOBを実施しているさなかに交渉を進めているもようだが、それはDCMが提示した島忠の買収価格が影響している。
DCMと島忠が急接近したのはコロナ禍の5月中旬。目的は「意見交換」(DCMの石黒社長)だったが、6月には本格的な買収交渉へと移行した。しかしTOB価格が折り合わず、1株3800円から始まった価格交渉は最終的にTOBに関する報道の出る直前の株価(9月18日終値)に45.93%のプレミアムをつけた4200円で合意に至った。